まさとの母

まさとが眠っている1週間の間、妹の茉莉花は毎日お見舞いに来てくれていました。ある日病室を訪れると茉莉花が先に来ていて、何かまさとに語りかけている様でした。

「まさとくんをいじめたやつを絶対に許さないから。わたしが懲らしめてやるから。」

その言葉を聞いたわたしは、子供の頃の茉莉花が瞬時に蘇りました。

わたしが小学生の頃、何故か男の子達からよくいじめられていました。それを知った茉莉花が「わたしが懲らしめてやるから」と、マリカからしたら年上の男子相手にケンカをふっかけて、力と言うよりもその迫力に気圧された男子は、それ以降いやがらせをすることはなくなりました。

幼い頃はそのように激しく感情をあらわすこともあった茉莉花も、大人になって随分落ち着いてきました。しかしまさとに宣言する茉莉花の様子からは、その頃とは違った静かなものを感じました。

茉莉花のことがどうしても気になったわたしはある日、後をつけてみることにしました。やり過ぎかなとも思いましたが、どうしてま胸騒ぎがするのです。案の定といいますか、茉莉花はとある大きな住宅の庭にこっそりと入って行きました。表札には金田とあり、まさとを虐めていた金田隼人くんの家に間違いないと思いました。気になりつつもわたしも入るわけには行かないので、周りを気にしつつ塀にぴったりとくっついて耳をすましますと、なにやら不穏な音と声が聴こえてきます。わたしはそれらの音と、それを庭でこっそり聴いて、おそらく見てもいる妹のことが怖くなり、その日はそっと帰りました。

また別の日、目まさとは覚まし自宅に帰ってきました。

いつものように茉莉花が訪ねてきてまさとと話をしているのを、なんとなく隠れて聞いていました。

「今は喋れなくて辛いと思うけど、まさとくんに嫌なことをした奴は、その分不幸になるから。世の中そういうふうに出来てるの。だから大丈夫。神様が罰をくだすから。でもまさとくんには幸せをくれるよ。茉莉花姉ちゃんがついてるから大丈夫だよ。」


茉莉花らしくないその発言に、わたしはまた怖いものを感じまして、茉莉花の後を再びつけることにしました。すると今度は夕方のまだ明るい時間帯に金田家に向かい、玄関から堂々と入っていくではないですか。服装もスーツでしっかりしていて、何事かと驚きました。様子を伺っていますと、支援団体の者だと自己紹介をして、旦那さんからの暴力について話しているようでした。もちろん、茉莉花は支援団体で働いてなどいません。訪問を終え帰っていく茉莉花を塀の陰から呆然と見送っておりますと、少し離れたところをまさとのクラスメイトのお母さんが歩いているのを見かけました。まさとと仲良くしてくれているお子さんのお母さんで、学校行事で顔を合わせた時にはいつも話しする方でした。私はその方に、金田さんについて様子の違うことはないか訪ねてみました。


そうしましたら最近支援団体の方がよく訪ねており、どうやら旦那さんがDVをしているらしいとお聞きしました。そのせいなのか、金田の奥さんを最近見かけなくなったともお話してくれました。

「ここの人たちは旦那さんの稼ぎとか、家の大きさにとても敏感な人が多いから、そういう噂が流れているとなると金田さん、とても生活しずらくなっていると思うの。金田さん自身も敏感な人だったから」

藤本さんのお話をきいて、わたしは確信しました。茉莉花の狙いはこれなのだと。そしておそらくまだ先があるのだと。


しかし茉莉花を嗜めたりはわたしはしません。ただ茉莉花の描くシナリオをいつまでも見ていたいと思います。まさとの為にいじめの事実を表立って主張するつもりはありません。しかしそれでは奴らに罰はくだらない。おそらく茉莉花は、金田さんを地の底まで落とす勢いで行動し続けるでしょう。わたしはそれを心の底から望みます。静かに茉莉花を応援しています。

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いじめ二次被害者 宮きやと @meeyakyatto

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