第11話 デスゲーム二回戦目
残り4人。小泉律子が別室に無理やり連れて行かれる様子を見てから参加者たちの空気は重かった。
「本城美里」「山崎健二」「柴崎蓮司」「正木あおい」残るメンバーは顔を見合わせる。
一人として勝ち誇るような気持ちになれた人はおらず、なんならその場で派手に人が死ぬ方がアドレナリンが出てテンションをあげられたかもしれないと地味な制裁を恨んでる人もいるのではないかという雰囲気だ。
現実的にイメージのし易い、餓死待つだけの部屋に連れて行かれる彼女の姿は、リアルな死のイメージを、正気を失わない程度に与えられる最も残酷なものだったのかもしれない。
未だに静かに耳をすませば未練がましく足を引きずるような音や、声を殺して泣いている声が聞こえてくる。少なくとも僕の知るデスゲームはこんな悲惨さを感じる、じわじわと辛いものではなかった。
一思いに殺し合いをさせるのは優しさなのか、何度も頭を過るのだが、誰かが死ぬことは出来るだけ避けたい。どうにか前向きに考えられないか模索する。
「次のゲームはサバイバルゲームで」
柴崎蓮司の声が響く。叫ぶというよりは宣言するというのが相応しい。彼は宣言したのだ。彼はルールを考える役割ではあるが、決定権はないはずだ。
しかし、彼の暴挙はその場の空気を大きく変える。正木あおいに向けてその軟な拳を振り抜いたのだ。それに反応するように教室の扉が乱暴に開かれた。
「ルール決定以前の暴力行為は厳罰だ!」
体育会系の部活紹介映像で見たことのあるその男は大きな声を上げ、鉄パイプを片手に教室に乗り込んできたのだ。
しかし柴崎蓮司はそれも想定内といったように、大ぶりに鉄パイプを振り上げたその男の脇をすり抜け、教室の外へ向かって走り出す。教室から出れさえすればどうにかなる。気付かなかったのか。と言わんばかりの柴崎だったが、体育会系の男の裏をかくには考えが足りなかった。
「悪いな」
腕を振り上げたままの状態で重心を移動し、体重を載せた肘を柴崎に打ち付ける。体重を載せて、のしかかるように浴びせるその肘の威力は相当なものだろう。少なくとも普段運動をしない人間が食らったのだ。しばらく動けないだろう。
筋肉質の身体で体重は90キロはあるかと思われたその重みが一気に突き刺さり、柴崎は痛々しい声を上げる。なんとか動こうとする様子は見せるのだが、その度に苦しそうにうずくまり咳き込んだ。
他のメンバーも便乗して逃げるなどすることも無く、意欲を喪失したように柴崎から目線をそらす。その逃走に自身が関与してないことを遠回しにアピールするようだった。
悲惨な状況ではあるが、このままデスゲームを継続すればよい。それでデスゲームを終わらせて日常に戻れば良い。それでこのゲームは終わりだ。
そう考えた矢先、倒れていた正木あおいが既に教室いない事実に気付いてしまう。
視聴覚室からの出入り口を通ればすぐにわかる。しかしまだ誰も気付いてはいない。しかし、正木あおいはそこにいない。
そうなるとまだ逃げ出してはないものの既に死角へと移動しており、正木あおいも逃げるスキを伺っているのかもしれない。
次にやるべき最適なアクションは何なのか神経を研ぎ澄ました瞬間、後ろから軽く肩を叩かれる。何があっても大丈夫なように気を配っていたつもりだったが、誰もここには入ってこないと気を抜いていた僕は警戒することも忘れ、何の対策をすることもなく無防備に振り返る。
そこには正木あおいがいた。僕は大きな声を上げ驚くが、外の監視者に気付かれまいと必死で声を殺す。それでも動揺など収まるはずもなく口をパクパク動かす僕に正木あおいは静かに語りかけてくる。
「一緒に悪魔を退治しに行かないか?」
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