第7話 エピローグ


マハトはナリミと深い抱擁を交わした後、里のある場所へと戻り、死んでしまった里の同胞達を弔った。ナリミがあんまり強く・長く抱きしめてくるので、戦闘で体がボロボロになっていたマハトは、そのまま気を失ってしまっていた。


できるだけ丁寧に死体を綺麗な状態に保ち、雑ではあるがなんとか墓も作った。

丸2日ほどかかり、なんとか全員を弔うことに成功した。





「もう、私たちだけだね」


ナリミが墓地の真ん中でボソリとつぶやいた。


「ああ、俺たちだけだ」


マハトも、ナリミの声に応える。





「うっ」





「うぐっ」











「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」











ナリミは大声で泣いた。

もうこれ以上、涙が出ないくらい泣いた。

共に同じ時を生きた彼らは、もう戻らない。もう2度と。


せめて、彼らが自分に残してくれた、この悲しみだけは、永遠に持っておこう。

そのために、ナリミは泣いた。



マハトは、そんなナリミに寄り添う。

マハトには、里の人々とそこまでの交流はない。だが、悪ガキ3人衆や、いつも悪戯をしていた里の有力者たち。なんだかんだで世話を焼いてくれた神殿の巫女の人たち。彼らと過ごした時間はささやかながらも、何にも変えられないものであったと、今になって思う。


マハトは、グッと涙を堪えた。泣くのは、ナリミだけでいい。悲しみは、ナリミがどこまでも持っていってくれるだろう。

だから自分は、彼らが遺したものを一つも忘れず、全て持っていく。



ザイドという強敵によると、自分は「成龍者」という特別な存在らしい。

成龍者はどうやら、このアルセル王国の存続に深く関わっているのだそうだ。


そして、おそらくバーゼルは自分が「成龍者」であることを知っていた。そして、何かの理由で、成龍者を娘であるナリミとすげ替えていたのだ。


そして、バーゼルの死はなぜか隠されていた。一度だけ遺体を目にする時間があっただけで、埋葬などは一切参加させられなかった。



自分には、何かある。そしてそれは、この里が滅ぼされたこととも関連しているだろう。

なんとしても、その理由を突き止める。必ずや、自分の存在理由を突き止めるのだ。





___________






数日後。



里の破壊された家屋を整理していた俺とナリミの元に、アルセル王国から派遣された正式な使節団がやってきた。


元々派遣されるはずの使節団は、道中で反政府組織「アルテノ」に襲われたらしい。それを指揮したのはアルテノの最上級執行者である「ザイド」という人間だったという。


俺はやってきた使節団に、事の顛末を話した。ザイドを倒したことを伝えたら、使節団は呆れて相手にしてくれなくなってしまったが。


だが、使節団のリーダーと思わしき男は、マハトの話を信じてくれた。



「信じるとも。君は気づいていないみたいだけど、君からは並の魔獣なら近づいただけで気絶してしまうようなプレッシャーが発せられているからね」


その男はアンヘル・ジオグレイと名乗った。アルセル王国の最上級将軍らしい。

最上級将軍はアルセル王国にたったの4名しかいない、まさに国を代表する最強の

将軍である。なんでも遠征中だったらしいので、そのまま急遽ここに駆けつけてくれたそうだ。


アンヘルは里の人々の墓地へ行くと、帽子を取って黙祷を捧げた。



「アンタは普通の国の将軍と違うな。もっと陰湿で嫌なやつだと思っていたけど」


「あはは。中央の将軍は頭の硬い老害が多いからね!若い力がこれからの王国には必要になってくるだろうさ」


「いいのか?そんなこと言っちゃって」


「いいのさ。僕は既に不敬罪・軍規命令違反罪・機密情報漏洩罪・無断出撃罪あたりに3桁くらい問われてるから」


「なんでそれでまだ将軍やってるのさ」


「さぁ?捕まって監獄に放り込まれても、僕を助ける声が僕を監獄から出してくれるからね。あははは!」


アンヘルは気さくで話しやすく、おまけに紳士的に里の被害に向き合ってくれた。破壊された里を、なんとか綺麗な状態に整えてくれたし、墓地を綺麗に整理してくれた。壊れた神殿も、配下を的確に動かして修理してくれた。



そんな中、アンヘルからとある提案をされた。


「君たち、王都に来ないか?」


マハトとナリミはこれから旅に出るつもりでいた。だが、アンヘルから出された提案は、願ってもいないことである。マハトは、「成龍者として生まれた自分の生きる意味を知る」という目的をアンヘルに打ち明けた。他にも、知りたいことはたくさんあった。龍の里が襲われた理由も、父であるバーゼルの秘密も。


アンヘルは真剣に話を聞き、そして受け入れてくれた。


「君の目的の達成のためなら、僕も協力は惜しまない。王都には様々な情報が集まる。自ずと、この国の秘密も王都に集まるだろう。それにマハト、君の強さは凄まじいものだ。軍に従事して将軍になれば、知り得なかった情報を手にすることができる。ナリミちゃんのことも、守れるようになるよ」


そうして、俺とナリミは里を後にし、王都へと向かうことになったのだ。





__________





最後に、俺とナリミは自分たちの家を片付けた。


俺がしばらく暮らしていた、里の外れにある小さな小屋。決していい住み心地ではないが、キッチンだけはやたら広く取られていた。



「前に住んでいた人、料理が好きだったのかな」



俺は長らく生活した愛着のある小屋を綺麗に掃除し___そして、後にした。

もう2度と戻ることのないであろう場所。その尊さを噛み締めながら、マハトは振り返らずに歩く。


(フン!王都とはな。儂も久しぶりぞ)


「ああ、お前王都行ったことあるんだっけ」


(あまり好きな場所ではない故、乗り気ではないがな)


「お前好きな場所あるのかよ」


(……そうだな。それはこれから探すとしよう)



刀となった龍が思い出すは、再度まで共に付き添った麦色の髪の女である。

龍は______確かに、彼女のいたキッチンだけが無駄に広い小屋が好きだった。






ナリミと合流し、使節団の車に乗り込んだ。

車が初めてだった俺は初めての乗り心地に慣れず、途中で車酔いした。吐き気がすごくて、めちゃくちゃ吐いた。


車の中で、ナリミと二人で居眠りをしていた。ナリミはスヤスヤと眠り、俺の肩にもたれかかっていた。


ナリミの頭を撫でながら、俺は二つ目の誓いをした。





いつしか______必ずナリミを、幸せにして見せると。

その時は、秘めていた思いを、俺からナリミに打ち明けるとしよう。在りし日の夜、ナリミが俺に仕掛けたことのお返しをするのだ。





___________





かくして、成龍が王国に舞い降りた。



成龍は、まだ幼い。まだこの世界の理に、この世界の秘密には、まだ気づいていない。



だが、日々一歩ずつ、確実に前に進んでいる。



若きその歩みは、例えようもないほど小さい。



だが、彼の刃は、いつしかこの世界に確かな変化をもたらすだろう。






2年後。



王国に、もう一人の少年がやってくる。



この少年もまた、この世界の理を、世界の秘密を知らない。



だが、少年は踏み出す。



己に定められた道を確実に踏みしめるように、少年は歩み出す。



その横を、成龍の少年が通る。



黒い少年と輝く金色の少年。二人は、道は違えど、確かに何かを目指し、同じ道を突き進まんとしていた。






少年たちの物語は、ここに開幕する。



いつしか彼らの物語が、この世界に確かな跡を残すまで。










_____龍刀使いのマハト 完_____

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

龍刀使いのマハト 八山スイモン @x123kun

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ