第89話
(俺が提案した案とはいえここまでとは…だけど、その対価に見合った効果はあったな)
麻奈の覚醒を見た俺はひとまずうまくいったことに安堵した。
よし、死神の大鎌と名付けようなどと意外と冷静にいられた。
麻奈が大鎌を手にシュプリールへと駆け出すが無数の刃に行く手を遮られてしまう。
(だよな…そう簡単にはいかないよな)
目を閉じた俺は意識を集中させた。
ゲームで司令官は直接戦闘に参加することはない。基本的には戦闘が始まればただ眺めているしかできないのだ。
そんな司令官が唯一戦闘に関与できるのが司令官専用スキルだ。
周りから力が湧き出すのを感じる。
目を開いた俺の周りには金と黒の光が湧き上がっていた。
自分ではわからないがニックのときと同様に目の色も金と黒のオッドアイになっているだろう。
いち早く異変に気づいたシュプリール
自分の知らない何かが起こっていることに明らかにとまどっている。
「貴様ッ、その目の色…一体何をする気だ!?」
俺は一気に【トリプルアップ】と【スレイ】 の2つのスキルを発動させた。
その瞬間、麻奈のスピードが一気に加速する。そして、跳躍。
シュプリールがこちらに気を取られているのだ。こんな絶好の機会を麻奈が見逃すはずがない。
やすやすとシュプリールの高さまで跳躍した麻奈はシュプリールの背後から一気に大鎌を振り下ろした。
完全に不意をつかれたシュプリールの右肩から先が地面へと落ちてゆく。
【トリプルアップ】は戦闘している兵の全ての能力が3倍になるスキルだ。
ゲーム内では負けられない戦いのときかレイドボスのときにのみ使用していた。
「クソどもがッ!!
こんなものすぐに再生して……
再生しないだとッ!?貴様、何をした!?」
これが【スレイ】の能力
スレイは簡単にいえば消失させる能力だ。ゲーム内では戦闘でやられた兵は基本的に2種類に分類される。
1つ目は負傷
これは治療すれば次の戦闘に参加可能だ。当然だが、負傷した人数によってその治療時間は変わってくる。大規模な戦闘の場合おそろしく多くの負傷が出るため、治療時間が72時間を超えるなんてこともザラにある。
2つ目は死亡
要塞にはレベルごとに治療できる人数が決まっている。それを超えた分は死亡となりそれがそのまま戦力の損失に繋がる。一部は死人部隊の兵となるが普通の兵と比べれば雲泥の差だ。
となると、みんな考えることは同じだ。
治療できる人数のみ戦闘に出し、戦闘が終われば治療終了までパーフェクトシールドを張るってのがゲーム内の常識になっていた。
そこで運営が苦肉の策として新たに実装したのが【スレイ】
このスキルを使用した場合、戦闘でやられた兵は負傷でも死亡でもなく消失するというものだ。死人にすらならない。
実装された当時はみなこの凶悪スキルに戦々恐々としたものだ。
だが、当然習得するのは困難をきわめた。
実際俺もこのスキルを習得するのにかなりの期間がかかったのだ。
どちらのスキルも強力ゆえ制限時間がある。さっさとケリをつけなければならない。
エナジードレインで弱っているところに2つの司令官スキルを同時に使用した俺は正直立っているのがやっとだったがまだやらなければならないことがある。
(雷剣のスキルは自身のスピードを上げるもの…これを弾丸へ)
麻奈の連続攻撃で防戦一方になっているシュプリールのガラ空きの背後から弾丸を撃ち込む。
その弾丸は雷剣+トリプルアップにより撃った瞬間には翼もろともシュプリールの体を貫通していた。
さらに雷剣の効果によりシュプリールは動けなくなる。そこへ麻奈のトドメの一撃が振り下ろされた。
「貴様らッ……これで終わると思うなよ…
次の渾冠が必ず貴様らを屠るだろう……ガハッ…」
シュプリールは地面へと落ち息絶えた。
極度の疲労と安堵で俺はその場に大の字に倒れこんでしまった。
(スキルを2つも使ってやっと一体か…これは先が思いやられるな。ってかマジで死ぬかも)
そんなことを考えていると麻奈が走り寄ってきたと同時に俺の腰の上に乗ってくる。
「あのぅ、麻奈さん?何をしておいでですかね?」
麻奈は満面の笑みだ。
「ほらぁ、ご主人様さきほどおっしゃってたじゃないですか。『時と場合を考えればぜひヤりたい!』って」
俺は赤面して
「ぜひヤりたいとか言ってねぇ!!いいからそこどけ!まだひばりと奈美を助けないとならないんだぞ」
麻奈は聞く耳を持っていないようで
「んふふ、ちょっとぐらいなら大丈夫ですよ!どけっていっても今ご主人様動けないですよね?
こんな千載一遇の好機を見逃すわけないじゃないですか!!」
(ああ、こいつには何を言っても無駄かも…)
命令してどかせてもいいのだが、こんなアホなことで使いたくはない。なので、俺は司令官スキルを発動させるべく意識を集中させる。
しかし、いかんせん股間の方が気になって集中できない。
当たり前だの缶コーヒー。年頃の男子がパーフェクトボディの女子に騎乗◯の態勢で乗られているのだ。
これで気にならない男がいたらそいつはもはや神か仏だ。
(上に乗っているのはダイゴロー、、、ダイゴローだ。ダイゴローだから大丈夫安心)
そう自分に言い聞かせてやっとのことでスキルを発動させた。
次の瞬間
「あぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」という2つの叫び声が辺りにこだました。
異世界転移なのにスキル無し!?〜その代わりアプリで育てた要塞で人間国家と敵対します〜 いっちにぃ @t-xillia
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