第49話 エピローグ② ~勇者たちの決意~
「修行をしたい、ですか?」
吸血事件の後、私たちはライクライ内の都市で休息をとっておりました。そんな最中、急に宿で招集がかけられたと思ったら、アレンさんから唐突なお願いをされてしまいました。
「そう。正直、今回の事件では再度自分たちの無力さを思い知らされた。リーゼロッテは勿論、ロッティーシャにも全員掛かりで全く歯が立たなかった。恐らく、あのメドレ相手でも同じだったろう。前回、オロチ様の時の事といい、運よく生き延びられてはいるが、少し間違えば全滅していてもおかしくない。」
確かに、ゼスタネンデでの事といい、今回の事といい、相手の力が圧倒的過ぎましたね。まあ、アレンさんたちでなくて、もっとベテランの冒険者たちだったとしても似たような結果になっていた気がしますが。むしろ、このパーティーの冒険者として以外の力が色々あったからこそ助かった、とも言えるのでは無いでしょうか?
「だから、どうにかパーティー全体のレベルアップを図りたいんだ。
リリシア、今までの君の動きを見ていれば、俺たちよりも遥かに凄い力を持っている事は明白だ。強引にパーティーに加わって貰った上に、こんなお願いをするのは筋違いだと思ってはいるが、どうか聞いて欲しい。俺たちが強くなれるよう指導しては貰えないだろうか?」
「お断りします。」
アレンさんの切なるお願いでしたが、私は一言で切り捨てる事としました。若干、皆さん呆然としていらっしゃいます。このまま補足せずにいるとパーティー内に決定的な亀裂を生んでしまいそうですので、すかさず続けます。
「私は魔族の血が混ざっているため、多少皆さんより力に恵まれているとは思いますが、残念ながらそれだけのことです。訓練・努力をして力を身に着けた訳ではないため、皆さんが強くなれるような何かを教えて差し上げる、という事はできません。ですので……。」
ただの記録係として静かに隅で見ているだけのつもりでしたが、昨今の情勢を鑑みて、私は少し手を加える事を決意しました。
「レベルアップを手伝って下さりそうな方、場所などを紹介させて頂く事にします。
……まずは、アレンさん、クレイさん、ミレニアさん。」
私が呼びかけると、斜め下を向いていた皆さんの顔がこちらに寄せられました。
「お三方はどちらかと言うと近接戦主体ですので、身体能力等の底上げが有効かと思います。そこで、ここから南の方にある霊峰にニチエさんという方が住んでおられますので、その方を訪ねてみて下さい。」
「ニチエ……さん?」
突然挙げられた見知らぬ名前に戸惑い顔の皆さん。まあ、無理もない反応ですが。 世間一般で名を知られた方と言う訳ではありませんので。
「ええ。その方は、かつての勇者の師でもあった人です。」
「ご先祖様の!?だとすると……。」
まだ存命であるのであれば、人間以外の何か、という事になりますね。はい。正解です。
「元々は人間の方です。ただ、人の身にして神を滅し、自らの責にて先へ進まれる決意をした事で、人を超える存在と成られました。そんな経歴の方ですから、皆さんが教えを請う相手としては相応しい方なのではないかと思います。その過程の一部でも辿れれば、大きく力を伸ばす事が出来るでしょう。
……次に、レンさん。」
「おっ、おう!」
何か微妙にどもった返事でしたが、レンさんがこちらを向きます。
「レンさんは、その体質を活かして更に精霊術を究められるのが宜しいかと。同じように、南の霊峰のどこかに『地の精霊王』がいらっしゃるというお話ですので、訪ねてみては如何でしょうか?勇者が契約されていたという『光』の方、或は『火』の方は東の大陸にいらっしゃるらしいですし、『風』の方はふらふらされているので捉えにくく、『闇』の方に至っては長らく行方不明です。ここは確実性をとるのが宜しいかと。もしかしたら近しい『水』の方とも、運よく出会えるかもしれませんし。」
「と、そいつらが言っている、という事か?」
どうやら、私の周りにいつも付き纏っている精霊たちの姿が捉えられるようになられたようです。『視える』人からは奇異の眼で見られてしまいますので、気配を消して頂いていたのですが。ついでに、彼らのお陰で他の方々が際限なく集まってくる、という事態も避けられているので、とても助かっています。変に目立つのは避けたいですからね。
「そうですね。彼らはそれなりに強い力をお持ちの精霊さんたちですので、情報は確かだと思います。気紛れで、大喰らいなのが玉に瑕なのですが。
……で、最後にカンナさん。」
ごくっ。そう生唾を飲み込まれて期待の視線を寄せられるカンナさん。
「……はて?カンナさんはどうして頂いたら宜しいのでしょうか?」
「ええ!!」
前のめりになっていたので、奇声とともに倒れこみそうになってしまわれました。何か、コントみたいな感じですね。性格・容姿とのアンマッチさが何か面白いです。わざとやっている訳ではないですよ。
「……えっと。私は魔族ですので。神とかそういった方々に祈ったり、力を貸して頂いたり、というような事をしませんので、どうしたらいいのかが良く分からず……。
まあ、そうですね。精霊術とかと同じ様な話ですかね。要するに、力を持つ方々にお願いして、召喚したり力を貸して頂いたりする、と。そうするとやはり、貸して頂ける方を増やす、より強い方との繋がりを作る、というのが良いのではないでしょうか?」
少し光明が見えて来た感があるので、虚ろだったカンナさんの顔にも光が戻ってきました。
「それですと……。そうですね。やはり、南の霊峰付近には『四神』と呼ばれるカミ達が棲んでいるらしいですので、彼らに力を貸して頂けるようお願いするのは如何でしょうか?確か、流水の守護神、大道の守護神、湖沼の守護神、丘陵の守護神、でしたでしょうか?ついでに、中央の方も確保出来れば尚良いかと思います。」
ボールを投げるだけの簡単なお仕事、とはいかないですけど。擬人化……というか美少女化とかしていたら人気が出そうですね!私としては、『森のお化け』が一押しなのですが!あの、モフモフが癖になって、毎晩呼び出してしまいそうです。毛皮のベッド、いいですね!
そんなこんなで、何となくレベルアップの方針を定めた私たちは、ライクライを離れて南下する事となりました。そして、霊峰の麓で一度解散、個々人にて戦力の底上げを図る事になりました。
脇役の逸脱 ゆきしろ @gokuchan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。脇役の逸脱の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます