第48話 エピローグ① ~魔族たちの憂鬱~

「なるほど、いい趣味ですね?」


 壁に並べられた大量の人を苦しめるための器具類、そして眼前のオブジェに一通り視線を送ってから、私はそうロッテさんに話かけました。


「そうでしょう?まあ、今日のオブジェにはちょっと不満があるのだけれどね。やはり、飾るのであれば、美しいものの方が良いでしょう?」


 若くて見目麗しい女性とか、と続けたいのでしょう。まあ、鑑賞するのであれば綺麗なものの方がいいという、ところだけは同意しますが。後は、可愛いモフモフでしょうか。その場合は、鑑賞だけではなくお触りもしたいところですが。怖いお兄さんたちに注意されないよう気を付けないといけません。とりあえず、質問に対してはスルーの方向で。


「それはそうと、少しお話しても?」


「これと?構わないわよ?」


 所有者の許可を頂いたところで、オブジェ……もといメドレさんに話かけます。


「メドレさん。いくつかお尋ねしたい事があるのですが、宜しいでしょうか?」


「……」


 無言を了承と解し、続けます。


「まず一つめ。プリメラさんの事ですが、彼女にも魔術を?昔はカンナさんを慕っていたというようなお話でしたが。」


 暫しの間口を開かず沈黙を保っていたメドレさんでしたが、特に問題ないと考えたとか、答えて下さいました。


「……いや。その必要もなかった。確かに、カンナとやらに憧憬を抱いていたのだろうが、同時にコンプレックスも抱えていた。それを憎悪に転換させる事は容易い事だったよ。それに……。」


「人外化によりそれが増幅された、と?貴方がたは人間たちを強制的に人外へと導く実験をされていたようですが、それは最終的には自分たちへ転用するため、ですか?これが二つ目の質問です。」


 吸血事件を起こしていた方も、何かそれに繋がるような心の闇?を抱えていたのかもしれません。人外化によりそれが表へと出て変質し、メドレさんたちに利用されてしまった、と。


「……そうだ。かつて我らが辿った道を再度進むために。そのための生贄だよ、彼らは。」


「皆さん、自ら至ったはずですがね。時間の節約にはなるかもしれませんが、ショートカットが良い結果をもたらすとは限らないですよ?

 ……それでは、最後の質問です。貴方たちは何を企んでいるのですか?人間たちを利用し、何を為そうとされているのでしょうか?」


 最後の質問に対して、再び口を閉ざすメドレさん。私は、脇に落ちていたものを無言で目の前に突き刺しました。


「ぐっ!……くっ、くくくくく。言う訳が無かろう?まして、貴様はリリシア・クリステア。折角の準備を台無しにされてはかなわん。そもそも、何故我々があんな回りくどい事をしていたと思おう?貴様のせいだ。貴様に直接手を下すというリスクを負う事は、出来れば避けたかった。」


 要するに、祖父や母に目をつけられたくない、という事でしょう。


「……そうですか。分かりました。もういいです。まあ、おおよそ想像がつくようになりましたし。それでは、失礼いたします。」


 早々に諦めて部屋から退出しようとした私の背中に、愉しそうな声がかけられます。


「あら?もういいの?もう少しゆっくりしていってくれていいのよ?それに、これの始末は?」


「いえ。あまり皆さんをお待たせする訳にもいきませんので。これ以上得られるものも無さそうですし。

 ……メドレさんに再度自由の身となって頂くのは望ましくありませんが、そんなことはされないでしょう?後は貴女にお任せします、ロッテさん。」


 愉快そうに口の端を吊上げて微笑むロッテさんを背に、私は彼女の居城を後にしました。

 彼らの企みに関して、私が何かするような筋合い、立場ではないのですが、このままですと、故郷の村に戻ろうとこのまま冒険者を続けようと、結局は巻き込まれて碌な事になりそうもありません。何か、手を打った方が良いでしょうかね?ちょっと考えてみる事にしましょうか……。

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