第52話
「ごめん、俺、やっぱり結婚は好きになった人としたい。好きになれそうな人がいるから。」
「うん、私こそ、無理言ってごめん。」
シーファは大人だった。
「でも、一緒に皇室を盛り上げたいとは思ってるから。俺にできることあったら、また何でも言ってほしい。」
「ありがとう。ショウタ。」
シーファは気丈にも物悲しく微笑むだけだった。これが大人の余裕というやつなのだろうか。
しばらくは何もなかった。
シーファと俺はそんなに喋ることもなかった。必要最低限の接触を心がければ、ほとんど会うこともない。
数ヶ月後、ハルシャの3人の妻たちの子供がみんな女児だとわかるまでは。
宮廷官、皇室、その情報を得た者達すべての間で激震が走っていた。
3人の新しい命が皆女児とは。一人くらい男児を産むだろう、と誰もが思っていた。
サクラさんはショックのあまり鬱状態になっているらしく、部屋から出られなくなってしまった。
「仕方ないよ、性別なんて自分で選べるわけじゃないんだからさ。」
俺はハルシャに言う。
「そうだけど、こうなってくるとほとほと笑えてくる。僕の存在意義はどうなるのだろう。」
「公務をやるだけでいいんだよ、それだけでも皇室にとってはかなり助かるんだからさ。」
「気楽なものだな、ショウタ。」
ハルシャの苦悩の意味を、俺はまだわかっていなかった。
水面下ではシーファを皇帝にする話がいよいよ本格的なものとなって進み出していた。
パンジャーブの歴史的にも女性の皇帝は一代限りならば数人存在している。
「ショウタさま、シーファさまとご結婚をしていただけないでしょうか。それが皇室のためなのです。」
宮廷官から秘密裏にそう言われるようになってきた。
「ハルシャさまのお子様が三人とも女児、というのは産まれたらすぐにとんでもないニュースになります。ハルシャさまがご子息をもうける可能性もまだ残ってはいますが、ショウタさまのご子息が皇帝になる可能性が高まった、ということでもあります。当初、我々はショウタさまには宮家を作っていただければと思っていたのですが、そうも言っていられなくなってきたのです。」
言われるたび、適当に濁しているが、のっぴきならなくなるまでにそう時間はかからなかった。
ハルシャの3人の娘たちは相次いで無事に誕生した。サクラさんの子供が母体のストレスもあったのか、30週で最初に産まれた。
サクラさんは正室となり、ヒビキさんとカエデさんは側室ということになったらしい。
カエデさんは産後の出血が止まらず、長いこと入院することになった。
ハルシャの3人の娘達の誕生はおめでたいニュースとして何日もトップニュースを飾ったが、どのニュースでも男児がいないことには言及され、俺の名前も必ず上がって、シーファとのデートの報道と合わせて、俺が誰と結婚するのか、という話で締め括られた。
皇帝とシーファから呼び出された時、俺は「ああ、きたか。」としか思わなかった。
ちょ、俺、皇族の血引いてるってマジ? たけなわうたげ @chassy5
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