第51話

「ショウタくんもすみにおけないな。」

 ガッハッハと笑いながら俺を小突いて通り過ぎて行ったのはサトナカだ。

 俺とシーファに進展があったので喜んでいるのである。

 同じゼミの友人にもシーファとのことは本当なのか聞かれた。

「遊びには行ったけど、まだそんなんじゃないよ。」

 俺はそう言って濁すことで精一杯だ。

 俺がアプローチしようと思っていた女性陣も軒並み祝ってくる。

「シーファさま、お似合いじゃん。よかったね。」

 どこか棘があるのが辛い。

「いや、まだ、そういうんじゃないんだけど。」

 だが、彼女たちに接近しに行くのも、より一層ことを荒立てそうでまずい気がした。

 まずはシーファと今後のことを話し合わなければ。


「ごめんね、あんまり時間あげれそうにないね。」

 しかし、シーファも俺に答えを求めてくる。

「正直、シーファのことを恋愛対象としてみたことはない。」

 俺は噛み締めた歯の間から言葉を絞り出す。

「それでもいいのか?」

「いいよ。」

 シーファは即答した。

「子供だってショウタが嫌なら作らなくってもいいよ。ハルシャが頑張ってくれたし。」

「それだと俺が皇室に来た意味なくならないか?」

「あ、そっか。」

 シーファは眉を落としたが、ふるるっと頭を振った。

「とにかく、今は私を恋愛対象として見てくれなくてもよくて、私は互いに支え合ってパンジャーブのためになることをしていける相手を選びたい。それは、どれだけ探しても、ショウタしかいなかった。」

 シーファの言葉が重くのしかかる。

「ショウタは自分から皇室に入ると言ってくれた人。それだけの覚悟をもっている人となら、私はたぶん、うまくやっていける。」


 その後、皇帝からもどうなっとるんだ、と呼び出されたが、俺は今しばし時間を、と懇願した。

 俺は一週間悩んだ。

 皇室関係の人とは誰も話さなかった。

 都合の良いことばかり言われるのも嫌で、大学も休んだ。

 親父には相談したし、リンにもマサトにも相談した。

 そして。


「ハルシャ。」

 俺はハルシャに会いに行った。

「おお、ショウタ。」

「ハルシャ…。」

「珍しいな、ショウタがそんな顔して僕に会いに来るなんて。」

「もう、どうしたらいいかわかんなくて。」

 俺はシーファのことはそういう気持ちで見たことがないけれど、他に道はなさそうな気がしていることを話した。

「あと、俺とシーファがくっついたとしたら、ハルシャにもいろいろと影響が出てくると思うし。」

 俺は、シーファやシーファの血を引く者を皇帝にしようとしている派閥が存在していることを暗に話した。

「ふぅむ。」

 ハルシャは考え込む。

「僕も始め、3人も婚約者ができることにものすごく嫌悪感を覚えていたのだが。」

 ハルシャはぼそぼそと話し始めた。

「やはり僕が後継を残さなければならないというプレッシャーや義務感から受け入れると決めた。」

 たしかに、ハルシャが婚約者を受け入れたときは誰もが驚いたらしい。絶対に拒否されるものと宮廷官は考えていたそうだ。

「僕自身恋愛はもう懲り懲りだったし。」

 ハルシャは遠い目をする。

「ショウタも皇室の一員である以上、後継を作ることは義務だ。」

 ハルシャははっきりと言った。

「君は、宮家を作るためにやってきたわけなのだから。誰が相手かは重要ではない。ショウタは好きな人と結婚したらいいと思っていた。ただ、シーファが行動を起こしてきた以上、君は、シーファに答えを出さないといけない。それは、僕や周りがどうこう言うことじゃない。君が決めることだ。ただ、もし、別れを選んだとしたなら、その時に絶対に、皇室の人間だから、とかそういうよくわからない理由でフるのだけはやめてやれよ。」

 ハルシャは真面目な顔で言った。

「周りに迎合することはない。ただ、シーファにとっては最後のチャンスかもしれないけど。30超えてるし。ショウタ、責任重いなー。」

「そうなんだよ。俺はまだ21なのにな。」



 そして、俺は、シーファに別れを切り出したのだった。

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