第50話

 その日は、敢えて目的の場所で待ち合わせた。2人とも電車で来るわけではない。安全上、警備員が運転する車である。皇族が2人で出かけるということで、警備は多くなる。そして、多くなるとかなり目立つ。

 皇族になって4年強、警備の多さにも慣れてくる。そして、こういう場合は自然と人混みは避ける。

「いいとこだね。」

「そうだね。」

 俺たちは郊外にある牧場にやってきていた。


 ヤギや羊、牛、馬、のんびり眺めたいところだが、行くとだいたい行った先の偉い人が来て、様々なことを説明してくれるのだ。

 今日はプライベートなので、と断ると、また必要になったら呼んでください、と名刺を渡される。

「体験してみたいとかあったら、いろいろできますので、気軽におっしゃってくださいね。」

 と言って、牛舎主任のマツバヤシさんは去っていった。

「何か、やりたいのある?」

 俺はシーファに尋ねる。

「せっかく来たんだからいろいろやってみたいな。バター作りとか、ソーセージ詰め体験とか。」

「いいね。」

「まぁ、だいたいやったことあるけど。」

「それを言っちゃあおしまいよ。」

 宮殿の別邸には牧場に近いものもあり、大抵体験できるようなことはやったことがあるのだろう。

「一番心に残ってるのは出産だよなぁ。」

 とシーファは呟いた。

「私が見たのは馬だったんだけど、本当に、なんというか、壮絶で、でもこれが命がつながっていくということなんだなぁって、思ったんだよね。」

 シーファの牧場との思い出を聞いているのはなかなか楽しかった。

 バターやらソーセージやらを作り終える頃には、互いに自然と笑い合う仲になっていた。元々仲はいいんだけど。


 夕食は個室のあるイタリアンレストランへ行く。

 牧場で牛を見た後に孔子のロティとか食べるのはどうなんだろうと思いつつも、味わって食べる。

「ねぇ、ショウタ。」

 ワインがうまい。

「今日、どうだった?」

「ん?楽しかったよ。」

「私もすごく楽しかった。」

 シーファもワインを嗜む。

「いろんな人とデートしてみたけど、今日が一番楽しかった。ありがとう。」

 シーファは素敵な女性だとは思う。だが、俺はまだ決めきれなかった。

「もう少しだけ、時間をくれないかな。」

「うん。いいけど、早めにお願いね。私もう30過ぎてて、週刊誌に婚期を逃したとかいき遅れとか書かれてるんだから。」

 酷いものである。


 俺はもう一度考えたかった。

 ミサキさん、カオルさん、ミドリコさん、そしてシーファ。

 贅沢な悩みだなぁ、と自分で思うほどには、自分に酔っていたかもしれない。


 そんな俺に天誅をくだすように、シーファと俺の牧場デートがすっぱ抜かれたのだった。

『シーファさま、ショウタさま、結婚秒読み』

 おいおいおいおい。

 盛りすぎだって。

 俺は頭を抱えた。

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