#31 完走




事故から半年経った。


イクミとの交際は相変わらず順調で、毎日電話でお喋りしてるし、お盆休みにはイクミの帰省に合わせて毎日会っていた。

連休中はミワとミクも誘って4人で地元に近い海にも行った。

イクミのナイスバディなビキニ姿が、美少女3人の中でも圧倒的存在感を放っていた。


スマホで美少女3人の水着姿を激写しまくったが、帰りの電車でミワにスマホ没収されて全部削除された時は、本気で泣いた。

比喩ではなく、本当に声出して電車の中でおいおい泣いた。

中3のときのイクミとのお別れの時ですら泣くの我慢したこの僕が、ガチ泣きしたんだよ! 酷くない!?

でも不憫に思ったのか、イクミはその日の夜にも水着を着てくれて、そのままエッチをさせてくれた。

イクミたんマジ天使。




僕のケガの方は、骨折した左手はほぼ完治しており、問題なく生活出来ている。


ミクに付き合って貰っていたリハビリは、夏休みにはジョギングに切り替え、今でも継続している。といっても、まだまだ、速度は出ないし長時間は厳しい。

でもお陰で、僕もミクも真っ黒に日焼けした。


ミクとの仲は良好で、僕のことは「アカリ先輩」と呼んで慕ってくれている。

登下校でも、事故後しばらくは進んで僕の荷物を持ってくれて、結局腕が治った今でも一緒に登下校している。

電車では僕の体を気遣って、体を支えるようにぴったり身を寄り添ってくれるのだけど、距離が近すぎてちょっとドキドキする。


それに、会話もミクの方から積極的に話しかけてくれるので、可愛い妹が出来たみたいで、お兄ちゃんデレデレしちゃう。


そういえば、初めてミワがミクを連れてウチに遊びに来た時、ミワが「おじゃましまーす」と言って返事を待たずに勝手に上がりノックもせずに「アカリー」と言って僕の部屋の扉をガバって開ける姿が相当ショックだったようで、「ウチに居る時よりも図々しくない!?恥ずかしいから止めてよ!」とミワの両肩を掴んで訴えてた。


僕の前では、図々しくてフリーダムな姉のミワとは対照的で、妹ミクは健気で従順で世話焼きなイメージ。

以前のツンツンしてた頃とは大違いだ。

因みに、学校ではお澄ましした優等生キャラで通しているみたい。




ミワの方は、2年のクラスでは完全に馴染んでて、その美少女っぷりとたまに見せる素の暗黒面あんこくめんで、そのギャップが良かったのかクラス中の人気者となっていた。


そうそう、今年の体育祭の応援団長を決める時、ミワが僕の方にチラチラ目線を送ってきて、まるで「アカリやりなさいよ」とでも言いたげだったので『応援団長は、森田さんがいいと思います!』と推薦し、嫌がるミワを無視して『モ~リ~タ~♪あっそ~れ!モ~リ~タ~♪』と森田コールでクラスメイト達を煽って逃げ道無くして、強引に決めてやった。


後で何発も鳩尾みぞおちにグーパン食らわされたけど、僕も応援団を手伝うってことで許して貰えた。

去年、僕が応援団長やるって聞いた時「楽しそう」って言ってたから無理矢理やらせたのに、酷い・・・





体育祭の出場種目は、こっそり1500メートル走に名前を書いておいた。


後から担任に、大丈夫か確認されたけど『中一の時に市内の新人戦で優勝した僕に死角はありませんよ』と言ったら「無理はするなよ」と許可してくれた。

ミワにもあとでバレて、ホントに大丈夫かしつこく聞かれたけど『どうせ誰も注目してない一番地味な種目だし、リタイアしても誰も気にしないって』と言って宥めた。


週末のジョギングの時に、ミクにも1500メートル走に出る事を打ち明けた。

ミクは「今のアカリ先輩なら大丈夫です!」と応援してくれた。

僕も『完走目指して頑張るよ』と答えた。








体育祭当日、ミワは、上は黒の学生服に下は制服のチェック柄のスカート&スパッツで頭には赤いハチマキという、ドコかチグハグな応援団長姿だったけど、沢山の生徒たちからスマホを向けられ写真に撮られていた。

1年の女子とかに「ミワせんぱい、かわい~♪」とか声かけられて、にこやかに手を振って答えるミワの姿に、天変地異の前触れを予感し、恐怖した。




僕が出場する1500メートル走は、午後の部の一番目にあった。

各クラスから1名づつ代表が出場し、全体の競技の中でも地味で盛り上がらない種目だった。

1周200メートルのトラックを7周半走るという、見ている側は退屈してしまう競技の為、仕方ないだろう。


出場者がスタート付近に集合し、軽くルールなどの説明を受けている時に、僕はジャージの長ズボンを脱いで、短パンになった。


僕は中学のころから、脚のキズ跡を隠す為、体育の授業などはいつも長ズボンを履いていたが、あの日以来表面上は立ち直っている様に見せているが未だ事故を引きずっているミワとミクに、『もう気にすんな。僕は平気だ』と言いたくて、わざとキズ跡を晒した。



スタートの合図で一斉に走り出す。

出場者たちはどこかけん制しあってて、スロースタートだ。


僕は一定リズムで息を吐き、回りのペースに合わせることなく自分のペースを心掛けた。


5周目までは、ペースを守れた。

6周目を過ぎると脚が重くて辛かった。

7周目に入ると、左脚が前に出なくて走ってるのか歩いてるのか判らないスピードになっていた。


ラストの周回でクラスの応援席の前を通る時、ミワの「アカリ!がんばって!あともう少し!」と大声で応援してくれる声が聞こえた。

1年の応援席の前を通った時にも、ミクの「アカリせんぱい!もう少しです!」と叫ぶ様な大声が聞こえた。


僕はふらふらでキツイ中、『二人とも人前で大声出すようなキャラじゃないのになぁ』とぼんやり場違いなことを考えながら残りわずかなゴールまでの道を走った。


結局、ビリでゴールした。

ゴールした直後『ひ~、しんどー!』と言いながら、地べたに大の字になって寝ころんだ。


『もう一歩も歩きたくねー』と脱力していると、応援団長姿のミワが「アカリ!」と叫びながら飛びついてきて僕の上から覆いかぶさった。

それにつられる様に、ミクも覆いかぶさってきた。

ミクの方は「ぜんば~い」と泣いていた。


二人は、僕が完走出来たことに感極まって、全校生徒が見ている中、応援席から飛び出して僕に抱き着いてきた。

あの日、目の前で暴走軽トラに僕が跳ね飛ばされる瞬間を見ている二人にとって、今の僕の姿は奇跡なのかもしれない。



応援席のほかの生徒たちも、僕たちの事故のことを知っていたり、僕の脚のキズ跡をみて察してくれたのか、そこかしこで拍手が沸いて「アカリちゃ~ん!おつかれー!」「アカリちゃん!完走おめでとう!」という声が沢山聞こえた。


僕は応援団長姿のミワの肩を借りて立ち上がり、片手を上げて声援にこたえた。

優勝した人よりも目立ってしまった。









僕は何度も大切な物を奪われて来たけど、今、僕の手の中には、取り戻した大切な物がいっぱい詰まっている。


大好きだった走ること。

愛しい恋人のイクミ。

大切な友達のミワとミク。


僕はもう諦めてなんかやらない。

僕は何度でも走りだす。

何度でも奪い返す。


何度でも言ってやる

ネバー ギブアップで

キャント ストップ マイ ラブだ!








お終い。





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罰ゲームで同級生に告白したら死ぬほど嫌われ、同じ高校に進学した。 バネ屋 @baneya0513

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