s1.15 奇麗な表面の多面体。

 次の日、アルクセラ先生の授業。


「それで、昨日はどうだった?」

「昨日、とは何のことですか。」

「もちろんエリオットのこと!」


 素直に答えるのもしゃくなのではぐらかす。好奇心旺盛な目を輝かして、先生は返答を待っている。わたしが黙っているうちはずっと見つめられるのだと思うと、わたしはため息をついた。


「……あさって、一緒に街に行くことになりました。」

「それはそれは。デート、いいねえ。はぐれないように気を付けなきゃだめだよ。あ、でも目一杯楽しんできてね。楽しい場所が沢山あるから、好奇心を抑えないで色々体験してきてね。あとで感想聞かせて欲しいなぁ。」

「……アルクセラ先生。」

「うん、授業しようか。だからにらまないで。」


 こういういじりは慣れないから、つい睨んでしまった。顔に出るのは半ば諦めていても何もかもを明け透けにはしたくない。


「まあ、エリオットはいわれるほど悪い人ではなかったですよ。だから、明後日は楽しみです。」

「それはよかった。数年経ったら成長してるよね。

 ……どうしたの?」


 前に訊いた話は何だったんだと睨みそうになった。眼を閉じて我慢する。表情に出やすいとはいえ目をつむってしまえば睨むことはない。


「なんでもないです。それより授業しましょう。」

「そうだね。」


 午前の授業は地理だ。





 昼食を食べたあとも授業がある。未知の知識と触れ合える授業はなんだかんだ楽しい。


「午後は魔法について学ぼっか。」

「はい。」


 黒板の前のテーブルに万年筆と紙の束を並べる。アルクセラ先生の授業を真正面で受けられる特等席だ。


「まずは前回の復習からだね。魔法を大きく二つに分けるなら何と何かな?」

「古代魔法と近代魔法です。」

「違いは?」

「近代魔法は古代魔法の一部を応用、発展した魔法です。なので古代魔法には近代魔法で再現できないものがあります。しかし近代魔法の方が簡単なので、応用が利く。あってますか?」

「OK、満点だね!」


 魔法の授業を纏めたノートを思い返しながら、先生の質問に答えていく。

 テレストリア学派でよく用いられる、土水風火の4つに分ける「四元魔法」。古代魔法のなかでも異質な「精霊魔法」。魔法の行使を助ける「魔導具」。授業が楽しみになるようなことを前回いろいろ教わった。


「うん、分類についてはばっちりだね。それじゃ今日は魔法の構造について勉強しようか。」


 そういうと、黒板に文字を書き始める。


「まず、魔法は大きく二つの要素がある。魔法陣と発動キーだね。」


 黒板の左端に書かれた「魔法」から線が二つ伸び、「魔法陣」「発動キー」に繋がる。


「魔法陣が効果のほとんどを決めていて、発動キーは魔法の発動するタイミングを決めているんだ。攻撃系の魔法だと魔法陣が完成したらすぐに発動だね。罠系の魔法なら踏んだらボンッ!って感じにするよ。」


 電化製品でいうとなんだろう。照明とセンサーライト?、定時になると点く街路灯も同じかな。蛍光灯が「魔法陣」、蛍光灯に通電させる方法が「発動キー」に当てはまると考えればいいのかな。


「発動キーに当てはめるのは、たいてい声か人の動きか時間のどれかだね。例えばこの魔導具。」


 そういって先生は何の変哲もない白い玉を差し出す。素直に受け取る。 



 バン


「!?、……。」

「特定の人が触れると爆発するようにもできる。」


 風船が目の前で破裂するとびっくりする。これも似たようなものだ。誰だって驚く。びっくりした。


「アルクセラ様!」

「わっ、な、なに?」

「お嬢様になんてものを渡しているんですか!」

「だ、大丈夫、大丈夫だから。ほらどこも怪我してない。」


 言う通りわたしの手に怪我はない。突然のことで驚いただけだ。むしろこのくらいのことなら騒がれるほうが気恥しい。


「大丈夫、びっくりしただけ。痛くはないよ。」

「……そうですね。」


 手を取っててのひらをまじまじと眺めたりリラは、安心したかのように呟いた。でもアルクセラ先生を鋭く見やる。


「気を付けてくださいよ。お嬢様が怪我でもされたら公爵様がだまってませんよ。」

「わかってるから安心して。怪我させるようなことはしないよ。」


 今日は何だかよく脱線する日だなぁ。


「わたしは大丈夫ですから、授業すすめて下さい。」

「そうだね。」


 先生は黒板の前にもどる。


「なにはともあれ発動キーについては理解してもらえたと思うから、次は魔法陣について。ハーメストの魔法理論では、魔法陣を更に分割して魔導回路というものを考える。」


 黒板の「魔法陣」と書かれたところから線をいくつか伸ばし、それぞれの先に「魔導回路」と書いていく。


「魔導回路には様々な効果のものがあって、それらをうまく組み合わせて魔法陣を構成する訳だね。」

「……質問良いですか。」

「どうぞ。」

「魔導回路一つで発動することはできますか。」

「できるよ。でもあまり意味はないかな。たとえば水塊を作る魔法だと、座標を指定する魔導回路、水を生成する魔導回路、この二つで構成されてるんだけど。」


 そういって黒板右の空いたスペースに書いていく。


「どこに出すかだけを指定したところで、魔法として何の使い道も無いよね。じゃあ水を生成する魔導回路だけを発動させようとするとどうなるかというと、実は発動できない。」

「そうなんですか?」

「あとで話す内容だけど、生成系の魔導回路は、他の魔導回路が座標を指定してくれることが前提になっているから、発動キーを繋げられないんだよ。無理矢理繋げてみたこともあるけど、何も起きなかったよ。」


 安全装置みたいなものなのだろうか。水がどこからともなく発生する魔法は怖い。前に飛んで行ってもらわないと。


「そうはいっても、新しい魔法をつくるにはこれまでにない魔導回路の組み合わせを考えることが大事だから、色々試すのはいいことだよ。

 新しい魔法といえば、テレストリアの魔法理論では新しい魔法を作るときは魔法陣同士を組み合わせるんだ。」


 でも効果は魔導回路ごとに決まってるなら魔導回路を組み合わせたほうがいいのではないだろうか。


「この方法だと、効果が良くわかった者同士を組み合わせるから新しい魔法を作りやすいんだよね。ただ自由度はどうしても落ちるし、効率は低くなるけどね。」

「魔導回路の効果はあまり分かってないんですか?」

「単体で発動できないと実験が難しいんだ。だから効果が知りたいなら、同じ魔導回路を含む魔法陣を集めて比べるんだよ。」


 そういわれると大変そう。虫を集めて昆虫の特徴を調べるようなものだ。


「魔導回路をさらに細分化すると魔導素子って呼んでいる要素の集まりだといえるんだけど、この分野はまだまだ未解明だね。魔導素子の特性が分かれば魔導回路の効果も分かると思うんだけどね、これがなかなか難しくて。

 ま、チェルシェには魔導回路について学んでもらうから、その後で興味があったら魔導素子もしよう。まずは基礎から。」

「はい。」


 魔法にも理屈っぽい面があるのだなと痛感する。わたしが10才ということを差し引いても難しい。本当に魔法が使える日が来るのかと心配になる。修了できなかったらどうしよう。





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p.s. 足先をひかがみで温める季節になりました。

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わたしだけの復讐劇。 ―TS令嬢の闇魔法はお母様に捧げましょう。― 斜めの句点。 @constant

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