s1.14 マルマスアルの庭園。

「あらためて友達といわれると、何をしていいかわからないね。」

「う~ん、まずはわたしのことを知ってほしい、かな。だからわたしにもエリオットのこと、教えて欲しい。」


 わたしとエリオットは復讐も婚約も関係ない、友達としての接し方を模索していた。帽子を被り、東屋の屋根の下から出る。


「何を教えたらいいだろう?」

「わたしは我が家の庭園を紹介したいです。」

「このまえ紹介してもらったよ?」

「前回は緊張していて話せなかったことが沢山あったので。例えばこの東屋、周りが開いているので気兼ねなくくつろげます。わたしの好きな場所です。」


 屋外で、誰の視線も感じない場所は少ない。東屋にいると心が安らぐ。


「そしてなにより、東屋をぐるりと囲む花壇っ。時間を忘れてしまいます。」

「花が好きなんだ。」

「そうですね。昔はそうでも無かったんですけど。」


 丁寧に育てられた花壇の花を幼いころから見ていた。晴れの日も雨の日も、花を専門とする庭師が毎日手を掛けることでいろどりは保たれる。季節によって移り変わる花は、わたしの趣味になっていた。


「ただ奇麗なだけでなく、泥臭い所が好きなんです。」


 花壇のそばうずくまり、花弁の揺れるをみる。

 庭園には蜂がいる。蜂は怖いから、わたしは蜂がいないときにこっそりと眺める。


「君は花壇の花が好きなんだね。」

「……そう?ですね。」





 ぽつんと立つ大きな一本の木を二人で見上げる。その太い枝の一つからは二本のロープが垂れ下がり、ブランコになっている。


「この大きな木は、マルマスアル家がこの屋敷を建てる前からあったそうです。」

「……なんだかここは自然を感じるね。」

「まぁ、ブランコをつけてしまったのであれですが。木の上からだと海が見えるんだそうです。」

「木登りはしたことないなぁ。」

「わたしもです。」


 我が家ではブランコの木と呼んでいるこの大木。わたしは余り来たことがなかった。お母様が好きな場所だと知っていれば毎日ここにいただろうか。


「この木になにか思い入れがあるの?」


 また顔に出ていた。


「お母様は、ここから海を眺めるのが好きだったと聞いています。」

「こんな大きな木を登るなんて、お母上は活動的な女性だね。」

「マルマスアルの男性は元来、活動的な女性が好きなようですよ?、どこまで本当か分かりませんが。」


 原作でそのように書かれていた。わたしはどうなんだろうね。


「君はどう?、好ましい男性の特徴はある?」

「どうでしょうね。」

「正直に言えば、僕は恋愛はよくわからない。合理的でない直情的なものて一体なんだろう、てさ。」


 恋愛にうといわたし達が婚約しているというのも変な話だけど、それが貴族の社会では常識。生涯一度たりとも初恋しない人もいる。貴族夫婦は恋人か契約者か。


「恋人とは許し合える人だ、とは聞きますけど。」

「許し合える、かぁ。」

「……許さないとそもそも仲が持たないのかも。些細なことで怒っていると仲が悪くなると思います。」

「恋仲でなくても、小さいことは目を瞑った方が良いらしいね。」


 ブランコの木の下では、恋路もちっぽけに思える。





 噴水の前は涼しく夏にはちょうどいい。


「競争?」

「はい競争です。」


 3メートルはある生垣に囲まれた、3段の噴水。その前で遊びを提案した。


「チェルシェ。10才とは言え僕は男だし、もう訓練もしてる。君が勝てるとは思えないよ。」


 ごもっとも。ただの100メートル走ならわたしに勝ち目はない。でもここは迷いの庭園。


「わたし達がこの迷いの庭園に立ち入ってから、噴水の前まで数分でしたよね。次はエリオットの番です。わたしより早く、迷いの庭園から抜け出してください。」


 往路がわたし、復路がエリオット。わたしも迷路の答えは覚えてないから条件はイーブンだ。


「そうですね、2分以内の脱出を目指してください。」

「面白いね。それじゃあ……、この道から行こうかな。」


 エリオットは入ってきた道とは正反対の通路を選んだ。


「そこでいいんですか?」

「同じ道をたどっても楽しくないからね。」

「ふふ、そうですか。」


 わたしは彼の後ろをついていく。東屋と違って解放感はないけれど、生垣で視界を遮られ、ただ二人だけの空間ができている。デートスポットに向いている気がする。


「こういう狭い道を通っていると街の路地を思い出すね。丁度これ位の、大人二人の肩が当たりそうな幅だった。」

「王太子がそのような所に行くんですか?」


 王城からここまで着ているのだから街に出たことはあるだろう。でも路地に行くには馬車では無理だ。お忍びで観光でもしたのだろうか。


「僕なんてまだ平民に顔がばれてないから、服装さえ気を付けていればばれないものだよ。路地なら貴族と顔を合わせることも無いし、気楽だよ。」

「へぇ。」


 街を知らない箱入り娘としては実に興味をそそる話だ。


「路地に行って何をするんですか?」

「普通に買い物や食事だね。」


 貴族社会から外れた文化。どんなものが売ってるんだろう。どんな料理があるだろう。想像が膨らむ。


「楽しそうですね。わたしも行きたいです。」

「二人で行くとなると、デートかな?」

「どうせ護衛だらけですよ。あはは。」

「そうだね。はは。」

 

 お母様が平民として教会で暮らし始めたのも、こんな好奇心からだったのだろうか。





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p.s. 9時に起きる意思と12に起きる結果。いつ戻ることやら。

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