青春の中のKについて

@kiwi0120

青春の中のKについて

なんだかんだで今もよくTVを観る。

それでも、一分一秒がもったいなくて、TVのCMをさっさと早送りしていたお年頃は過ぎて、

ただ、ぼーっと眺めるようになった。

そんな中、TV画面には毎度変わらぬ青春CMが流れており、

これが憧れから過去になり、フィクションにしか感じなくなった今になって思い出す。

俺にも青春というか若いころのなんかこういうキラキラがあったということが。

今は三十の半ばを折り返し、おじさん以外の何物でもない俺として生きているが

十代、二十代、特に十代のかつての俺はに青春らしきキラキラを求めて

その世界にあこがれていたし、フィクション世界のキラキラとは言わずとも

現実的ながらも、若さゆえのまぶしさの中に生きてきてはいたと思う。


十代…今思えば眩しすぎて良くわからないうちに終わっていた。

新品のゲームソフトを急いでプレイしたく、走ってこけてそれでも嬉しくて、

カップラーメンの味にいちいち喜んでたし、水着グラビアに愚息を直立起立させ騒いでた、

目に映るものすべてが輝き、可能性に満ちていた。

そんな中で特に輝いているやつがいた。

仮にKとしよう。そいつのことが思い出され、すこしやるせなくなった。


Kはいわば頭の良いアホで、彼の発想は驚く程鋭かったが、その発想からの選択がアホだった。

ベクトルが虚数空間を向いていた。

学生生活を謳歌していたのだろうがその選択故、二浪は軽く決め込んでいた。

言葉面ではKをバカはしつつも、そんな自由に生きて輝いているKにあこがれていたのは事実だ。

そんなKはなんとか高専は卒業できたものの、またアホの選択でフリーターになっていた。

それも含めてKだ。Kの人生だし、憧れるけど俺にはできないな、

そう思っているうちに俺は安牌の社会人をそこそこ忙しい生きて徐々にKとは疎遠になっていった。

風の噂では消防官になるためにKなりには頑張っては居るようだった。

そして、三十路も近づいたある日、数年ぶりにKから突然の電話がかかってきた。

「今年が消防官試験の最後の年なんやけど、受かる気がせんねん。

 バイトはバイトで周りがアホばっかりで…どうしたらええ?」

と、いきなりの電話でのこの質問はKらしいなと思いながらも答えらしい答えも出来ず

「なら、必死で消防官試験頑張れ」

といったようなことしか言えなかったように記憶している。

以来、Kとは交流が無い。周囲の人間も知らない様だ。

消防官試験に受かっていると良いなと思う一方で

この状況が残酷な現実を暗示しているのも事実だ。

人生とはかくも難しいものだ。忘れることでしか解決できないこともある。


今後、俺がKについて知るとき、会うことができたときに、

あいつはあの時と同じくバカな笑顔を俺に向けてくれるだろうか。

最後の電話の少し弱った悩みと、その悩みが解決されてくれればとは思うが

現実はCMの青春ほど甘くない。

Kに会いたいいう思いと、会うとお互い傷つくのかもしれないという臆病さが交差して

結局あの電話から数年間何もしていない自分はこうして彼を思い出しながらもまた何もしない。

それは結局自分にもかすかにあった青春のかけらと憧れを思い出のままにしておきたいのかもしれないし、それでいいのかもしれない。

そう思って、TVを消した。

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