第2話:思い出は、遠くて近いもの
「相変わらず寒いなぁ…」
扉を開くと同時に、-15℃の冷気が全身に襲いかかる。ちょっとした動きでさえ躊躇うほどの冷気だ。
「今日は風がないだけ…マシかな」
まるで『こんなのもう慣れっこだ』というような口調で、彼女はそう呟いた。かすかに震える声が、彼女なりの強がりを暗示させる。
一面の雪景色に残る、1組の足跡。彼女が目指す場所はどうやらあの建物のようだ。
物置とも呼べないような、粗末な建物。窓は割れ、扉は歪み、床は軋む。それでもなお彼女がそこに足繁く通うのには訳があった。
『おもいでの部屋』
扉にはそのような文字が彫ってあった。小学生の頃に彫ったのだろうか、所々に間違えた跡が散見される。
歪んだ扉を力一杯引いて、彼女は中へ入る。最低限の補修はしてあるものの、やはり寒い。普通に呼吸するだけで、吐いた息が視界一面を白く染める。そんなもの寂しい部屋にひとつだけ、異質の存在があった。
やけに手入れのされた、アップライトタイプのピアノであった。
31℃の雪が降る さくら大根 @Tukemono_Daikon
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