31℃の雪が降る

さくら大根

第1話:白く染まった世界で

「日焼けするって…なに?」

澄んだ目の少女だった。「夏」を知らない彼女だからこそ出たこの言葉が、未だに脳裏に焼き付いている。そう…あれはいつにも増して雪が降った日のことだった。

 『ジリリリリリリリリリリリ!!!』

薄青い朝霞の中に突如として響く目覚まし時計のアラーム。それに呼応するかのように、部屋の隅にある毛布の塊がモゾモゾと動いた。

「もう…朝かぁ…」

朝はいつだって誰だって気だるいものだ。思わずはぁ…と吐いた彼女の口から、うっすらと白い息が漏れる。

「こういう時に『えあこん?』ってモノがあれば、まだマシなんだろなぁ…」

そう呟いた彼女は、半ば無意識に古ぼけたカレンダーへと目線を移す。大輪の向日葵が描かれたそれは、今からきっかり10年前で更新が止まっていた。

何かを書き込んでいたであろう鉛筆の文字も、安物の蛍光マーカーで塗られた何かの印でさえ、今では解読ができないほどに薄れてしまっている。

 全ての原因は今から10年前にある。突如として飛来した小惑星が、この地球の何から何までをすっかり変えてしまった。衝突の影響で、地球における四季の概念は実質的に崩壊し、全世界における季節は『冬』のみになってしまった。否が応にも自然界の「生存競争」に晒された人類は着々と数を減らし、最終的には総人口の半分にまで減ってしまった。運良く生き延びた人々は今、世界中のあらゆるところで、その日を生きるために必死になっている。

「……よし!今日も1日頑張るか!」

あらかじめ沸かしておいた湯で淹れたコーヒーと、いつもと変わらないバタートーストを食べ終えた彼女は威勢よくそう口にすると、お気に入りの防寒具の袖に腕を通した。

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