3、『無敵兵団』

 『ゴオオォ〜ン』


 な、懐かしい、衛鬼兵団の議事堂だ!


 …と言うことは…


 ユイ!


 俺の横に、いつもの不敵な笑みを浮かべているユイが座っていた。


 「…貴様、また『ナミダ』を流しておったのか。 今度は、何の懸案だ?」…と、ユイが、あの声、あの表情で、俺に語りかけた。


 「俺は、お前が消えてから、ずっと寂しかったんだぞ」 …だい大人おとな台詞セリフとは思えないが、これこそが今の俺の本心だ! 悪いか!


 「これより、軍議を凝らす」


 …参謀長が、俺に気を遣って、やや小さめの声で開会の辞を述べた。


 「過日かじつ発覚した、対衛鬼兵団組織『斬鬼軍』との交戦について議論させて頂きます。」


 …斬…鬼…軍…?


 ユイが、「我が衛鬼兵団えいきへいだんが仕えていた皇帝陛下が、万が一、あたしたちがクーデターを起こした時の為に秘匿し続けていた、我らに対抗する軍事力を有する、もう一つの近衛師団だ」…と、苦々しく言った。


 …ユイたちの次元に平和が訪れ、衛鬼兵団えいきへいだん放逐ほうちくされたと同時に『斬鬼軍』も鳴りを潜めていたが、奴らは秘密裡ひみつりに、衛鬼兵団えいきへいだんの殲滅を目論んでいたそうだ。


 「先日、貴様の『ナツマツリ』を実施する方策を検討していた時に、兵団の一部が奴らによって破壊されたのだ」


 「兵士は無事だったのか?」


 「当たり前だ。 誰一人欠けてはおらん。 …ただ、今後はどのような攻撃を仕掛けてくるか、現時点では全く不明だ」


 ユイがそう言うなら、間違いなく斬鬼軍の情報が把握出来ないのだろう。


 「これは、あくまでも予測でしか無いが、今、一番危険なのは貴様だ」


 え? 俺??


 「貴様は、従軍経験で言えば、ほぼ皆無だ。 斬鬼軍の暗殺者アサシンが現れたら、貴様は塵ひとつ遺さず消え去るだろう」 …う〜ん、穏やかじゃ無いね…。


 …作戦参謀が立ち上がり、発言を求めた。


 「…以上の事から、今次戦が終了するまで、総司令閣下からは我々の、我々衛鬼兵団えいきへいだん兵士全員からは『タイラ ハチヒト』という人物の、全ての記憶を消し去る事とした」


 …………………え?


 「万が一、我らが捕虜になったり、逆に貴様が捕虜になった時に、ほんの僅かでも互いの記憶が残っておらば、恐らくその場で貴様は消されるだろう…。」とユイが淋しげに言った。


 「じゃあ、これで俺たちはお別れ…って…こと?」


 ユイは「案ずるな。 我等のきずなは、貴様の胸にある『司令徽章』に記憶させる。 …もし、我らが斬鬼軍に勝利した暁には、その徽章が、貴様を捜索して再び我等を結び付けてくれるであろう…」  


 『司令徽章』を外し、ユイに返しながら、俺は、これだけは確認しなくてはならない一言を口にした。


 「もし、お前たちが負けたら…それこそ本当に会えなくなる…のか?」


 ユイは、今迄いままで見た中で、最高の笑顔を向け、こうのたまった。


 「安心せい。 我が衛鬼兵団えいきへいだんは、『無敵』だ!」





 …焔の龍のような軍医が現れた。 


 俺たちの記憶を消す為だ。


 …俺とユイは、初めて固い握手を交わした。


 そしてユイに渡した『司令徽章』をもう一回手に取り、念を込めた。


 『必ず、帰って来いよ!』



 …見渡すと、懐かしい参謀たちが、俺に向かって最敬礼している。 情報参謀や、通信参謀、作戦参謀に、参謀長…。 皆、悲しんでくれているように見えた。 俺も、最敬礼で返した。


 そして、ユイ…


 …ユイは、本当の最後に、俺の胸に飛び込んで、声を上げて泣いた。 …俺もつられて涙を流した。


 …このままでは、きりがない。


 俺は、軍医に視線を送り、一礼した。


 軍医が答礼し、装置をこちらに向けて、火炎のようなビームを照射した。 


 …前回とは違う、蒼い焔だった。それはユイや衛鬼兵団えいきへいだん、そして俺の、涙の色を模しているようだった…。





 …それから数日後の…


 ある日、コンビニで弁当を買い、アパートに帰る途中、夕焼けがあまりにも綺麗だったので見惚みとれていると、突然『キューン』…という聴き慣れない音が聴こえた。


 ふと、そちらに目をやると、金ピカに輝く鳥? みたいなもんが飛んでいた。


 物珍しさから追いかけると、そいつはカエデのたねのようにクルクル回って、俺の足元に落ちた。


 拾い上げると『龍のバッヂ』のようだった。


 何気なくそれを胸に当てると、まるで磁石のように、服に貼り付いた。 引っ張るが、取れない。


 俺の前に一人の少女が現れた。


 何回か、目をこすったが、少女は消えない。


 幻ではないようだ ………。




 『鬼の兵団(正史)』・完


作者注:引き続き、続編 本物の戦争勃発!司令官はなんと…美少女!原因は俺の片思い…。 …をお楽しみ下さい!



PS.お名前を出して良いかどうか判らないので、敢えて匿名様とさせて頂きますが、今回の執筆に付きまして『近況ノート』にて大ヒントを授けて戴き、この場をお借りして、厚く御礼申し上げます。

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