手作りお菓子と理解のある彼くん

怪しいカップケーキ

　なんか口がモゴモゴしてるな、と不意に思った。それにいつもよりヘラヘラしてる、とも。まぁコイツがヘラヘラしてるのは珍しいことではないけれども。

　……その異常を、俺は見なかったことにして、それがいつバレるんだろうかと笑いながら数日後。思ったよりも大ごとになったらしい。

　手作りのカップケーキを小さく一口ちぎる彼女は、口をモゴモゴさせながら構内をプラプラしていたら、何食べてるの？ と聞かれたらしい。

　もうこの時点で何が起きるかは見え見えだが、続きを促すと、そこまでは良かったんだけど、と返ってきた。

　口を開けて見せてやれば、聞いてきた女は驚きのあまり、こいつが紙を食ってることを友人達に話してしまったらしい。

　そこから大学にチクられて、それがなぜか家だけに話がいって。ようやく二口めに手を出したこの女は、内々に検査をし陰性であることが判明した後、こっ酷く叱られた、というわけだ。

　……しかしこいつ、ゆっくり大事にカップケーキを食べているが、それだけの味だったか？

手作りがうまくいったら確かにより美味く感じるが、さんざ菓子作りをしてきているのだからそれは違う気がする。

実際、目の前のカップケーキには興味なさげにスマホをいじっている。自分の分を飲み込んで、聞くこともなくスマホ片手にしばらく眺めていたら、思い出したかのように三口め。

少しばかり口角を上げ、持ってくるのに使ったジップロックを取り出すものだから、

｢ぷっ……ククク……。お前さ、反省する気あるの？ 俺はチクらないけど、もう怒られたくはないでしょ？｣

｢それもそうね｣

　愛しいこの馬鹿は、カップケーキを一口に飲み込んで、唇を舐めた。