超全力科学部
入部から一週間が経とうとしている。
少しずつ部活動にも慣れ、我々一年生は初めて顧問と会うことに。
「顧問はどんな人なんですか」
「うーん、あんまり部活に来ないってことだけは言えるね」
カケルさんはメダカに餌をあげつつ言う。先程まで優雅に泳いでいたメダカの群がる様子は何度見ても見飽きない。
今まで顔合わせの無いまま今日を迎えたが、相変わらず部長は虫かごを眺めている。つい昨日知ったが、ワラジムシの研究中らしい。
しばらく雑談をしていると、急に
「こんにちは。顧問の神田です」
ばっちりとセットした髪に短い半袖。初対面の先生に言うのも良くないが少々気取った、いや、自分への自信らしいものを感じる。
「はじめまして。えっと松下くんに小林くんに
「あっ、
「あぁ、海莉さん、よろしくね。急で悪いんだけど君達にお願いがあって」
先輩達は一瞬酷く不満げな顔を浮かべたような気がしたが、見なかったことにする。
「実は急に小学校でサイエンスショーをすることになって、一ヶ月後までに完璧にしてほしいんだけど」
「一ヶ月後までにですか」
先輩達は顔を見合わせる。
「なんとか頑張ってみます」
「よろしくね。本番までにチェックするから早めに仕上げて」
そう言い残し、顧問は去っていく。まさか初めての顔合わせでそんな事を頼まれるとは思ってもいなかった一年生はあっけに取られる。
「安心して皆さん。
「部長はゴッドって呼んでいるんですね」
さっきの印象からゴッドという名は想像できず、思わず笑ってしまいそうになる。
「神田の“神”からとってゴッド。性格は全然ゴッドじゃないけどね」
笑ってはいるが、目は正直笑っていない。
一連のやり取りから大体を察し一年生は苦笑いを浮かべる。
「でも、急にショーなんて」
「あの人はいつも急だよ。まあネタなら多少あるから」
「実験なら仕組みをしっかり理解しなければ」
「ということは、私の大好きな物理と数学をみんなで勉強、だね」
「物理? 数学?」
先輩達はなぜか嬉しそうだが、一年生の顔は明らかに曇る。
そんな勉強をするなど聞いていないのだから。
「大丈夫、君たちならきっとできる!」
グッと手でポーズを作るカケルさん。本当に一ヶ月以内に完璧に仕上げるなどできるのだろうか。
――次の日――
早速サイエンスショーに向け準備に取り掛かる。
「君達には教科書のここからここまで勉強してもらうよ」
副部長はページをめくってみせる。電気関係など難しそうな図や式がずらりと並んでいる。
「うわっ、これ終わるのかよ……」
「大丈夫。僕らも全く習ってないから!!」
うんうんと頷く二人。尚更大丈夫でない気がするのだが。
「とりあえず始めよう」
まずは一年と先輩で分かれて勉強することに。
自信のない私に反し、松下は意外にも乗り気であった。
「少しずつやれば大丈夫でしょ。俺数学はできるから」
「そうなんだ」
先輩達の互いに教えスラスラと進める様子が科学部らしくかっこいいが、慣れない一年はどうしても進みが遅い。
「全然わかんない……」
「じゃあ俺がお前らに教えてやるよ」
松下は難しい内容も一から教えてくれた。
「こう?」
「ここはこうやって……」
毎日夜7、8時まで皆で勉強する日々。こんなにハードだと思っていなかったが、そのお陰で互いの距離は縮まったかもしれない。
――それから一週間――
「今日は買い出しに行きません?」
「あぁ! 実験道具だね」
皆で近くのホームセンターへ行くことに。久しぶりに勉強以外の活動だ。遠足みたいで自然と足が軽い。
買い物を終えた一同が帰っていると、急に黒い雲が空を覆い雨が降ってきた。
「うわっ、もうすぐ着くっつうのに」
「よし、急げー!」
学校に向かって走る高校生六人。傍から見たら異様な光景であろう。
なんとか学校に到着し、ぐっしょりと濡れたまま理科室へ入る。
「ふぅ、ギリセーフ」
「いやどこがだよ」
カケルさんのボケに小林の鋭いツッコミが入る。やはりだいぶ先輩後輩間の距離は縮まったようである。
確かにセーフではないと思いつつタオルで顔を拭いた。
「安心してください。購入した物は無事ですよ」
「でもこれじゃあ当分帰れそうにないなぁ」
窓の外では轟々と音を鳴らして雨が降り、雷まで鳴る始末だ。
「では、試しに実験します?」
「いいじゃんやろうよ」
「そういえばどんな実験なんですか」
そう問うと、部長はガサゴソと袋を漁り、一見実験とは関係の無さそうな風船やらアルミホイルやらを取り出した。何か嫌な予感がする。
「今回は静電気の実験だよー」
「やっぱり」
やはり予感は当たっていた。手をつなぎ輪になった人たちに電気を通すあの有名な実験だ。
「あれ痛いんじゃ……」
「面白そうでしょ。ねぇ河ちゃん」
「最高だよね」
笑みを浮かべる先輩達を見て、頭にマッドサイエンティストという文字を浮かべつつ、実験の準備を進め、遂に整った。
「では、3、2、1!」
“バチッ”
激しい音を立てて電気が流れるのがわかった。
「痛っ!」
「やっぱ痛いなぁこれ」
そう言いながら皆で笑う。もはや雷の音など気にならない。
――そして当日――
チェックを受けた際、
小学生の声が聞こえてきた。いよいよ始まるのだ。
「こんにちはー! 今日は皆さんに静電気のショーを……」
あっという間に時間は過ぎ、最後は例の実験で大いに盛り上がった。
私も達成感とこれで穏やかな部活になるのだという喜びで溢れる。
――だが、とある日――
「急で悪いんだけどクイズ大会に出場することになった。本番は2週間後だ。よろしく」
そう言い残し去っていく
理想と少し違った部活動。
それでも私達は、今日の放課後、理科室に集う。
今日の放課後、理科室に集う 如月風斗 @kisaragihuuto
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます