今日の放課後、理科室に集う
如月風斗
入学、入部、そして……
私、
もう高校生か、と物思いにふけりつつ、受験勉強から開放され、特にすることも無い私は高校のパンフレットを開いた。そこには目の痛いほどにキラキラ輝く高校生たちの部活動写真が一面に広がっている。
「部活かぁ……。運動部は絶対ムリだし、特にやりたいことも無いし」
一人パンフレットを眺めながら呟く。文化部の紹介写真を見ていると、ある部活の活動風景が目に止まった。
「科学部……」
実験をしている白衣姿の高校生達。活動日数も少なく、雰囲気も良さそうである。そして何より平和で楽しそうだ。
この部活ならきっと、ゆったりとしたスクールライフが送れるに違いない。
「決めた、決めたぞ。私はこの部活に入って平穏で楽しい高校生活を送るんだ!」
――それから約二週間――
入学式から三日、新たな環境で心配事も多い。
だが、せっかくの高校生活、どうせなら楽しみたいじゃないか。とは思うものの、ワイワイ騒ぐのもあまり得意ではない。
そんな私が楽しみなのはやはり部活だ。あのパンフレットで出会ってしまった部活――そう、科学部だ。平穏かつ楽しい学校生活を送るために私はあの部活に入ると心に決めたのだ。
そして始まった部活動見学。クラスの女子達がキラキラとした部活へ見学に行く中、私は広い校舎で迷ってしまうのではと心配しつつ、人気のない薄暗い廊下を進む。
「理科室、ここで合ってるよね」
やっと理科室にたどり着き、部屋をそっと覗いてみる。そこには男子三名の姿があった。
本当にここかと不安になるが、扉には疑うことさえ拒まれる科学部と書かれた大きな看板が下がっている。
恐る恐る部屋へ足を踏み入れ、声をかけた。
「あっ、あのう……」
三人の視線が一気にこちらを向き、一瞬の沈黙が生まれる。気まずさを感じながらもさらに一歩進める。
「おっ、科学部志望?」
「あっ、はい」
入ってと手招きをされ、理科室へ入る。
「ようこそ科学部へ! こんな部活に入ってくれるなんて嬉しいなあ」
「まさか部活動見学1日目から来てくれるなんて」
「誰も来ないと思って私数学の問題とき始めちゃったよ」
「はっ、はあ……」
一斉に話し出す三人に圧倒されつつ、誘導されるがままに椅子に座る。理科室特有の真っ黒な机が並んでいる。そして謎のプラスチックのコップを渡された。
「やっぱり科学部の部活見学といえばスライムだよね!」
「そっ、そうですね……」
突然のスライムづくりに驚きつつ、無心で液体を混ぜる。が、じっと見つめられ少々気まずい。それを感じ取ってか、一人の先輩が話しかけてきた。
「なんでこの部活に入ろうと思ったの?」
「パンフレットの写真を見て、すごく楽しそうだなって思いまして」
「おぉ、やったね! 部長さん!」
「だな」
部長と呼ばれたのは大人しそうな人で、じっと虫かごを眺めながら返事をする。中には得体のしれない虫達がザワザワと駆けずり回っている。
この虫達のお世話はちょっと嫌かも……。
「あっ、僕の名前まだ言ってなかったね。僕カケルっていいます。あの黒板の前で唸って数学やってるのが副部長の河ちゃん。君の名は?」
「あっ、海莉っていいます」
「カイリかぁ〜。いい名前だ」
高校生らしからぬ風格のある反応をする先輩。高校生ってこんな感じなんだっけ?
結局スライムづくりと雑談で終わってしまった部活動見学一日目。それでもなんだか楽しそうで、面白そうな部活であった。やはり私もあの中で活動をしたいものだ。
――部活動見学二日目――
再び薄暗い廊下を進み、理科室に足を踏み入れる。すると、昨日の三人に加えて二人の男子の姿があった。コップを持ってぐるぐると混ぜているから、きっと私と同じ部活動見学だろう。
「おぉ、やっほー!」
「こっ、こんにちは」
こちらに気づいたカケルさんの威勢の良い挨拶が飛んでくる。
男子二人の目線もこちらへ向く。
「このお二人も科学部志望のようですぞ。えっと名前は……」
「松下です。なんか楽しそうなんで見に来ました」
「小林だよ。俺はなんとなく良さそうだなと思って」
そう答え、黙々とスライムづくりを再開する。やはりスライムというのはなにか惹かれるものがあるのだなぁと二人を見てて思う。
「部員ってみなさんだけなんですか?」
「そうだよ。部員少ないでしょ〜。去年は沢山いたんだけどね」
なんでだろうねと楽しそうに笑う先輩たち。
そんな先輩達を見て目を合わせる一年生。
ここから、私達の部活動ライフが本格的に始動することとなった。
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