邪悪登場!そして新たなる戦いへ!
ナクレイア城を知るものは、皆かの城を常夜城と呼んでいる。
それは比喩表現や、あるいは地形的な問題ではなく、城主の強大な魔力によって、常夜城の周辺が常に夜闇に覆われているためである。
太陽も月も、星でさえも、ありとあらゆる天の光をその城は許さない。
どれほど暖かくあろうとも、天からの降り注ぐものを――見下されることとして許せぬのだ。
その城は世界の果てにあり、非道極悪大魔王の暴虐の影に隠れてひっそりと勢力を広げていた。
そして、非道極悪大魔王が死んだ今、とうとう世界の覇権を握らんと動き始めたのだ。
常夜城会議室――黒を基調とした内装は夜の中にあって、夜闇を実際の形として具現化したようである。
そこに集まるは、常夜城の王に絶対の忠誠を誓う常夜城四将軍である。
「グハハ……四将軍が勢揃いとは珍しいこともあったものだなァ!?」
常夜城四将軍の一人、怪力のオゴウである。
外見は平均よりほんの少し大きい健康な老人のようにしか見えない。
しかし、彼の肉体をほんの少しでも触ればわかる、撫でるだけで良い。
刃を撫でたかのような鋭さ、そして樹齢数千年の大樹のような肉の密度をはっきりと感じるだろう。
筋肉だけではない、皮膚まで鍛え上げられているのだ。
眼球まで硬いのではないかと思わせるだろう。
その膂力はドラゴンですら投げ飛ばすと言われている。
「ククク……全くですね」
オゴウが買ってきた土産のクッキーを食べながら薄く笑うのは、常夜城四将軍の一人、剛力のコロウである。
スーツを着用し、髪は丁寧に七三に分け、人に与える印象が柔らかくなるような眼鏡を掛けた彼は一見すれば、異世界のサラリーマンのようにしか見えない。
しかし、その鍛え上げられた肉体はスーツでも隠しきれぬほどに、膨張している。
その膂力はドラゴンですら投げ飛ばすと言われている。
「ウフフ……四将軍が全員集められるなんて……珍しいね!」
コロウが入れた紅茶の良い匂いを堪能した後、 冷めるのを待って、じっと紅茶を見ているのは常夜城四将軍の一人、蛮力のノゾミである。
黒を基調としたゴシックロリータドレスを身にまとった、触れれば溶けてしまいそうな白い肌の少女、外見からはそう判断することしか出来ない。
しかし、一度戦に赴けば素手で敵兵を千切り殺す恐るべき腕力の少女である。
その膂力はドラゴンですら投げ飛ばすと言われている。
「……」
「グハハ!!あいかわらず無口な男だなァ!」
何も言わず静かに紅茶を啜る全身ローブに見を包んだ妙齢の女性は沈黙のアルギュテである。
あらゆる魔法を極め、汲めど尽きぬ海の水と呼ばれる膨大な魔力を持つ恐るべき魔術師であるが、口下手であるために性別もいまいち把握されておらず、今日も買ってきたお土産を渡すタイミングを逃したので、自宅で一人処理する運命を背負っている。
「にゃーん」
そして会議室のテーブルの中央で丸くなっているのが四将軍の五匹目、ゴロウザエモンである。
ゴロウザエモンは一見するとただの野良の黒猫にしか見えないが、高貴そうな外見に反して人に懐きやすいところがあり、兵士達に野良三等兵として可愛がられていたのを、四将軍が三食昼寝付きで正式に雇用し、あれよあれよと四将軍の五匹目にまで出世した恐るべき猫である。
その毛皮はつやつやとしてなで心地が良い。
「よく来てくれたね、諸君……」
「ナ、ナクレイア様!」
会議室の扉を開き、最後に現れたのは少年とも少女ともわからぬ、どこまでも中性的な吸血鬼であった。
常夜城の王――ナクレイアである。
触れてしまえば折れてしまいそうな華奢な体躯である。
しかし、全身から立ち上るオーラを感じてナクレイアに触れようとするものはいないだろう。
「クク……ナクレイア様、我らを皆呼び寄せるとは 、一体どのような要件で?」
「ウフ……!どんな敵かなぁ?気になるなぁ?」
「…………」
「にゃーん」
ナクレイアはゴロウザエモンを上座に座ると、ゴロウザエモンを呼び寄せて膝の上に置いた。そして心地よい黒い毛並みを撫で回した後に、微笑を浮かべ言った。
「知り合いの飼い主さんから、ゴロウザエモンとお見合いをさせたいという話があった……」
「お見合い!?望むところですなァ!?」
「クク……ゴロウザエモン、あなたもそんな歳ですか……」
「わぁい!良かったねゴロウザエモン!!」
喜びのムードに包まれる会議室、だがその雰囲気を切り裂くかのようにアルギュテがおずおずと手を上げた。
「どうしたんだい?アルギュテ……言いたいことがあるなら行ってご覧?」
(あの……アルギュテが口を開くというのか!)
(ほう……あの魔術師がねぇ!)
(アルギュテが口を開くの、ノゾミ、初めて見見るな!!)
視線を一身に浴び、アルギュテはまるで海中にいるかのような身体の重さを感じた。
強い緊張感に視線を床に向け、しかし
アルギュテは精一杯の勇気を振り絞り、言った。
「あ、あの……ゴ、ゴロウザエモンちゃんは……すでにお付き合いしているネコちゃんが……」
会議室に衝撃が走った。
アルギュテの声を聞き、初めてその性別を知る者。
アルギュテの方がゴロウザエモンに詳しいことに動揺を隠せぬ者。
アルギュテがネコにちゃん付けする事実にときめきを感じる者。
目を伏せたアルギュテを除き、四将軍の皆がナクレイアを見た。ゴロウザエモンですら、ナクレイアを見上げていたのである。
「飼い主さんには申し訳ないが……こっちの方が都合が良いかもしれないね」
ナクレイアはゴロウザエモンを天に見せつけるように抱き上げた。
「ゴロウザエモン……君も近いうちにお父さんだ!!」
四将軍がその言葉に拍手を送り、アルギュテも一拍遅れてから手を叩いた。
ゴロウザエモンは何をやっているのだと言うのでもように「にゃーん」と鳴いた。
新たなる敵との戦いの日はそう遠くはないだろう。
なんか流行ってるらしいからパーティーから追放してくれって頼んだら追放してくれたけど無職になっただけだった 春海水亭 @teasugar3g
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