第17話 名も無き戦場

この惑星、「イクス」に於いて人間の支配領域は地球ほど広くはない。


理由としてはまず危険な魔獣という存在が挙げられるが、その他にももっと根本的な問題があった。


森の民たるエルフやゴブリン。


それに獣人などの亜人族。


人間達は遥か昔から彼らと切っ先を、そして銃口を向け合って来た。


民族ではない、種族そのものの対立は例え何百年という時を経てもその関係を改善することは叶わなかった。


亜人族は皆人間よりも力が強く、特別な力を持つ種も存在する。


彼らの力を恐れた人間達は騎甲兵を作り、街を壁で覆い隠し、幾度かの武力衝突を経てもう2度と彼らと関わりを持つ事は無くなってしまった。


しかし亜人族の中で内戦が起きている今、長い間黙殺を決め込んでいた人間達が漸く動き出したのだった。










統一暦1785年 10月 7日。


場所はリドミア帝国より北西約600km離れた位置にあるキヴ大森林。


森の中を突っ切る1本の大河。


その水面から何かが複数浮かび上がってきた。


川の中から上がってきたのは6人程の人の形をした生物。


濃緑の肌とエルフのように尖った耳。


紛れもない、ゴブリンの集団だった。


しかも全員が短小銃や短機関銃、狙撃銃で武装していた。


肌の色と迷彩柄の戦闘服や身に纏った草木が絶妙にマッチして敵からの視認性はかなり低くなっているだろう。


その姿は宛らゲリラ兵のようであった。


いや、ゲリラのようではなく、彼らは正真正銘の……。







後方の破壊活動の為にやってきたゴブリンのゲリラコマンド部隊だった。


「…………」


彼らが森の中へ入ると先頭の赤い鉢巻を身に付けた隊長のゴブリンが全員停止のハンドサインを出した。


6人のゴブリン達は周囲に銃口と視線を巡らせ警戒する。


隊長が安全を確認すると前進のハンドサインを出しながら森の奥へと隊を率いて歩み入っていった。


彼ら6人はそれぞれコードネームを与えられて行動をしている。



50mm擲弾銃を持ったグレネーダーの「ブラッド」。


マガジン給弾式の軽機関銃を持った援護兵の「チョーカー」。


破壊活動に於ける最も重要な存在である工兵の「デーモン」。


多くの医療用機材や薬品を持ち歩く衛生兵の「エッジ」。


狙撃手であり隠密戦に長けた「フォーク」



そして赤い鉢巻が特徴の短機関銃を持った隊長が「アルター」。




6人はある程度森の中を進んだ所で停止した。


先頭のアルターが双眼鏡で前方を見る。


「……敵の補給基地。 間違いない、情報通りだ」


双眼鏡を左右に動かし、基地周辺の情報を探る。


補給基地の外、彼らと最も近い位置に武装した女エルフの兵士が1人佇んでいた。


その様子は気だるげで変わりない日常を過ごしているようだった。


「11時の方向、歩哨が1人。 フォーク、やれるか?」


アルターの言葉にフォークは静かに頷き、その手に持っていた狙撃銃を構えた。


呼吸を最低限に抑え、手ブレを減らしながらレティクルの中心と敵を合わせる。


女エルフの兵士は森と同化した彼らに気付く事もなく、数秒後には顳顬を撃ち抜かれていた。


側頭部から血を流しながら女エルフの兵士は力無くその場に倒れ伏す。


狙撃銃の銃口に装着された特殊な装備はけたたましい銃声を極限まで抑え込み、他の歩哨も誰1人として銃声に気付くことは無かった。


進行を妨げる障害を排除した彼らは、補給基地の中へと潜り込んだ。

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アマルトロスの騎兵隊 COTOKITI @COTOKITI

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