第16話 地均し

中央区の公園に設置された砲兵陣地。


そこの砲兵将校は腕時計で遂に時が来たことを確認した。


砲兵将校と目が合った砲兵達は拉縄を握ったまま頷く。


105mm榴弾砲「Hs.1721」の砲口は、人の居なくなった西区へと向けられていた。


「……撃てぇぇぇぇッッ!!!!」


砲兵将校の発した怒声。


そして1秒と経たずに何重にも重なった砲声が公園に響き渡った。


2番装薬の燃焼によって爆発的に加速した榴弾は砲口から放たれ、空の上へと向かっていく。


弧を描きながら落下する榴弾の先は西区の住宅街。


何の抵抗手段も持たない魔獣達はただ空から降り注ぐ何十発もの榴弾の雨を眺める事しか出来なかった。




《弾ちゃぁぁぁぁぁく!! 今!!》







魔獣達は、自らの死を自覚する事すら出来ぬまま爆風と炎によって灰燼に帰した。


市街地のあちこちに榴弾が降り注ぎ、爆風と共に魔獣達の大小様々な肉片が飛び散る。


中型種は爆風で吹き飛ばされ、小型種は崩壊した建物の瓦礫で押し潰されていった。


初弾は修正無しにも関わらず、魔獣が密集していたのもあって見事に命中してくれた。


砲口からは硝煙が漂っており、発射後の余韻を未だに残していた。


着弾音が止んでから暫くして、観測機から砲兵陣地に入電が入った。


「観測機より入電!!」


「内容は?」


砲兵将校が通信士の元へ駆け寄り、入電の内容を聞く。





「《初弾命中確認 同一諸元 効力射ヲ始メラレタシ》!!」


内容を知った砲兵将校は再び大隊に命ずる。


「再装填!! 弾種榴弾!! 装薬同じ!! 諸元同じ!!」


発射用意の整った事を確認すると砲兵将校は本日2度目の発砲を開始した。


「ってぇぇぇぇぇぇえええ!!!!」







一方で、中央区へと無事避難することに成功したマリノフ達は公園に建てられた避難場所に集まっていた。


マリノフが停めたエグゾスーツの周りには物珍しさに多くの難民が人集りを作っていた。


人集りより少し離れた位置にはマリノフ、ベルナデットにアウスロとシャローの4人がいる。


4人とも疲れ果てた様子で公園の大木に背中を預けていた。


「マリノフ……と言ったか。 貴公の騎甲兵は何やら変わった形をしているな。 このような形状のものは皇国軍でも見たことがない」


エグゾスーツを見上げながらアウスロはマリノフに問うた。


「この機体、なんという名前だ」


問いにマリノフは疲れからか素っ気なく答える。




「……型式番号EFS-36、愛称は……ランサー」


槍は使わんがな、と皮肉を言いながら苦笑するマリノフ。


「良き名前だ。 それにこれはさぞかし武勲を立てた機体なのだろう。 この使い込まれ方を見れば分かる」


ランサーには最後に戦った時の損傷とは別にかなり前に現地で応急処置を施した痕跡が機体中に残されていた。


装甲は度重なる溶接でケロイドのように爛れ、内部の制御機器は一部外付けで剥き出しになっている物さえある。


この時、アウスロには片膝をつき佇むランサーの姿がまるで数々の戦場を生き抜いてきた不屈の戦士のように見えた。













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