第15話 西区脱出

中央区シクドース広場よりさらに後方。


リドミア帝国陸軍第347砲兵連隊第4大隊はそこに砲兵陣地を築いていた。


公園の野原に並べられた数十門もの105mm榴弾砲は悠然とその足を地に沈めている。


「弾種榴弾!! 装薬2番!!」


観測機から送られてきた諸元を既に入力していた榴弾砲の閉鎖機に105mmの榴弾と2番装薬が装填された。


「装填完了!!」


装填手の言葉を聞いた砲兵将校は左手の腕時計を見る。


砲撃開始まで、あと3分を切っていた。






《走れ!!止まるな!!》


《行け行け行け!!》


《カバーする!!》


四方八方から襲い来るイーターの大群を退けながら中央区に入る為の城門へと足を急ぐ。


商店街だった場所のあちこちで120mm榴弾が炸裂し、瓦礫が散乱する。


「クソっ! 砲撃準備の合図から今何分経った……!?」


《城門見えたぞ! 走れ!!走れ!!》


商店街を抜けた先に見えたのは高く聳え立つ城壁とその中心に陣取る巨大な門。


恐らく騎甲兵の通行も想定して作られているのだろう。


城門が見えてもう少しで終わる、と少しばかり安堵したそばから小型種のファイターがエグゾスーツと左手のトラックに飛び付いてきた。


背後から突然現れたファイターにシャローが飛び上がる。


「うわあああ!!」


荷台にファイターが乗り込んできた。


顎をガチガチと鳴らしながらその複眼で恐怖に怯える難民達を睨みつけると彼らを喰らわんと飛び掛かる。


「下がれ!!」


その直前に、ベルナデットが短機関銃でファイターの頭部を撃ち抜いた。


高速の徹甲弾で外骨格を貫かれ、脳を破壊されたファイターはバランスを崩して地面へと落ちる。


エグゾスーツの方にも張り付いてるのを見つけたベルナデットはそれも直ぐに撃ち落とす。


全方位から現れるファイターに機敏に反応し、目に止まらぬ早さで次々と撃ち落としていく。


驚く事に、激しく揺れる荷台の上で彼女はたった2本の足でバランスを保ちながら全てのファイターの頭部を正確に撃ち抜いているのだ。


「す、すげぇええ!!」


「貴様……そこらの凡兵ではないな……!」


尻餅を突きながら感嘆の声を上げるシャローとアウスロを横目にベルナデットは引き金を引き続ける。


弾が切れて再装填を行おうとした時、隙を突いてファイターが背後から飛び掛かる。


瞬間、ベルナデットは凄まじい速さで腰のホルスターから拳銃を引き抜き、スライディングでファイターの腹の下を通り抜ける。


標的を見失って一瞬混乱したファイターの頭部に膝立ちで3発撃ち込む。


ファイターは即死し、沈黙した。


そうこうしている内に、城門が内側から開かれたのを護衛部隊が確認した。


更に中から避難の支援の為か装甲車や戦車が何両か出てきた。


彼らは中央区の防衛を担っていた精鋭揃いの近衛機甲師団の兵士だった。


《各車! 自由射撃開始!!》


機甲部隊が部隊両翼のファイターへと発砲を始め、小型種が瞬く間に勢いを失っていく。


穴の空いた包囲網を突破し、城門へと全力疾走する。


何百発もの機関銃弾と砲弾が真横を掠め、風切り音を奏でる。


エグゾスーツが城門の前に辿り着くと、護衛部隊は周りに半円の陣形を取り、城門の守備に加わった。


《そこから先は安全だ!難民を連れて行け!!》


護衛の騎甲士に後押しされ遂に中央区の中へと入ったマリノフ達は中で待機していた騎甲兵に先導され、中央区の更に奥へと入っていった。

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