冬の日

尾八原ジュージ

冬の日

 昔住んでいた団地でのことなので、たぶんそのとき僕は五歳か六歳だったと思う。

 冬の寒い日だった。西日が差し込む和室で友達と遊んでいると、その子が突然「あっ、くるよ!」と言って、ぼくに炬燵に潜るよう促した。

 何かの遊びかと思って炬燵に入り、ふたりで布団の隙間から外を覗いていると、ベランダに面した掃き出し窓の向こうに、突然巨大な顔がぬっと現れて、部屋の中を覗き込んだのだ。

 その後どうなったのかよく覚えていない。そこで僕の記憶は一旦途切れて、家族と夕食のカレーを食べているところに接続されてしまう。巨大な顔はいつまで部屋を覗いていたのか、一緒にいた友達はいつ帰ったのか、そもそもその子は誰だったのか。疑問に思ったのは成長してからで、僕はとっくにその町から引っ越していた。

 だが、単なる子供の夢だと一蹴してしまうには、その記憶はあまりにリアリティに満ちているのだ。


 ちなみに後年、合コンでこの話をしたとき、初対面の女の子に「それって○○県営住宅でしょ?」と団地の名前を言い当てられたことがある。

 ちゃんと話す前に、彼女は他の男とその場を抜け出してしまった。一応名前だけは幹事から聞き出したが、結局その後は会えていない。

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冬の日 尾八原ジュージ @zi-yon

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