海をおいて帰っても

晴れ時々雨

𓇼𓆡𓆉

心地よい気怠さとまだ照りつける夕前の日射しの中、駐車場に戻る。ボクらは更衣室のない海水浴場の駐車場に備え付けてある水道で体の砂を洗い流し、帰り支度をする。濡れた水着は滑りが悪く、ただでさえ不器用なボクは着替えに手間取った。植え込みを背に、筒状のタオルの中で体にひっつきまくる水着をなんとか外そうと藻掻くボクを彼は助けようと手伝ってくれる。

筒状のタオルはスナップボタンの隙間があるから、そのままだと下手くそなボクの着替えは丸見えになるけどそんなに気にならない。

彼がいればボクはタオルなんか要らなかった。でも彼はタオルの隙間の前に衝立みたいに立ちはだかってボクを屋外から遮断してくれる。タオルを取ってもよかったけどそうしないで、彼をカーテンにしながらボクは着替えた。

肩から紐を外し、下に降ろす。さっきまで海とボクとの接点だった水着が、海を忘れようとしているボクを責めるみたいに絡みついて離れない。なんとか水着を脱出して、タオルの中のボクは裸になった。これから問題のパンツを履かないといけないんだけど、タオルを巻いた状態で砂まみれの足をパンツに突っ込むのは結構難しくて、ギクシャクしているボクを彼はにやにやと眺めていた。

目を細めたり見開いたり、彼のからかうような視線を躱しながら着替えを続ける。ボクは着替えにくいのが面倒くさくなって、タオルから上半身を出した。

結局裸になってしまったのを照れると、彼がむき出しになったボクの体の一部を熱い眼差しで見つめていて、心臓がぎゅっとして、まだ下着しか着けていない腰のタオルを取った。

女なのに自分をボクと呼んでしまうボクの体は褒めるところなんかどこにもない。それでも彼に可愛がってもらえることでこの体のことが少し好きになっていた。

彼が見ていてくれるならここで素っ裸になったって恥ずかしくない。彼はボクに最大の勇気を与えてくれる。誰もが振り返るような人であればよかったけど、そうじゃなくても彼はボクを気に入ってくれている。

ボクは橙色めいてきた太陽に照らされ、パンツ一丁で彼を見つめ返す。

「そのまま帰るか」

バカ言ってんじゃないよ。

そして着てきた服に手早く着替えた。


開け放った助手席のシートで濡れた髪をとかしていると彼の着替えが始まる。運転席のドアを影にして、腰にバスタオルを巻いて水着を取る彼は恥ずかしがったりしなくて大胆だ。

男って人前に晒しても平気なのかな、そんなわけないだろうけど全然気にする素振りもなくて、適当に折り込んだタオルの端が緩み、不意に現れた繊細な鼠径部がボクの目を奪う。

おっとか言いながらアソコだけを隠して落ちたタオルが地面に溜まった海水を吸う。それを砂だらけのビーチサンダルで蹴りあげ、その隙にさっと短パンとTシャツを身に着ける。それから小さめのタオルで髪をごしごしと拭きながら道具を片付け身支度を整える。ああ、彼が眩しい。

「行くぞ」

素早く運転席に着く短パンの中の彼が自由になっている。彼のパンツはまだビーチバッグの中。ねぇ。ボクは助手席から短パンの裾に手を伸ばし、フリーに収まっている彼を撫でた。

道路はオレンジと紺色のコントラストで眩しさを増す。窓は全開。ボクたちはどんどん渇いて夜に帰っていく。

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海をおいて帰っても 晴れ時々雨 @rio11ruiagent

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