Call Me Maybe

「あーあ、馬鹿みたい」

 自分から電話番号を教えるだなんて。かかってくる保証もないのに。

 不動はつねは、傘もささず、慣れないヒールで夜の街をフラフラ歩く。頭もクラクラ、イカれてしまったみたいだ。

「お姉さん、一人? もしよかったらオレらと飲みに行きません?」

 二人の男を引き連れた軽そうな男が、馴れ馴れしく肩に手を置いた。

 ナンパか。いつもならついていくけれど、今日はどうするか。

「やっぱ、女の子がいないとね、盛り下がるんだよねー」

「そうそう、その女の子もブスじゃあダメ! お姉さんみたいに可愛くないとね!」

 男の連れもヘラヘラ笑いながらそう続ける。

 ふうん。そうか、そうか、つまりそういうことか。

 不動は鼻を鳴らした。

「あたし、あんたたちのために可愛くなったワケじゃないから」

 唖然とする男たちを無視してツカツカとその場を去る。

「まっ、待ってよ。女ってのは男のために可愛くなったり、綺麗になったりするんじゃねえの!?」

 男たちの声なんて聞こえない。世間の声なんか知らない。

 空車のタクシーを見つけると、不動は運転手に✕✕駅までと言って、社内に乗り込んだ。ネオンが、飲み屋の明かりが、ヘッドライトの光が、車窓の後ろに流れていく。

 男のためにあたしはあたしになったんじゃない。と、言えたらよかったのに。

 ああ、今日はもうダメだ。頭がおかしくなっている。

 これが恋か。恋なんてつまらないものだ。思えば、自分から好きになった相手とはいい仲になった試しがない。好きになったほうが負けだというものなら、連戦連敗。勝てた試しなんてない。

 酒なんて一滴も飲んじゃいない。気が狂ったわけでもない。

 レースのスカートよりジーンズのパンツが好き。ハイヒールよりスニーカーが好き。そしてそんな自分が好き。それ以上の『好き』は抱えきれないはずなのに、不動は誰かを好きになる。

 それが恋なら、不動は恋が嫌いだ。

「『これ、あたしの電話番号。気が向いたら連絡して』。……馬鹿みたい」

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9+1 ヤチヨリコ @ricoyachiyo0

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