Next To You

「今にも落ちてきそうな青空って言うのかなあ。今日はそんな日」

 空の青さを知る人よ。君は美しい。

「ね、そう思わない?」

 空を見上げる彼女はあまりにも小さかった。

 黒岡真秀は不動はつねを想う。友情か、愛情か、慕情か、今はまだ分からないけれど、そこらの凡庸な女たちには抱かなかった感情だった。

 カランと風鈴が鳴る。汗の匂いと蚊取り線香の匂い、夏の匂い。

 彼女の顔に汗が光る。これが涙でなくてよかったと思うのは過ぎた思いだろうか。

「もし、空が落ちてきたとしても、俺は君の隣にいるだろうな」

 いつもと変わらない表情で、黒岡は語る。

「もしかして、プロポーズかなにか?」

「そう、受け取ってもらっても構わないよ」

「ふうん、じゃ、そうしとくわ」

「答えは、今じゃなくてもいい。だが……」

「そうだね。答えは欲しいね」

 不動は微笑む。

 こういうときほど蝉の声より嫌なものはない。寄せては返す波のような騒がしさ。まるで、急き立てられているような気分になる。

 黒岡の背中に汗が気持ち悪く這い下りた。

「あたし、あなたのためには死ねないわ」

「……というと?」

 黒岡は不動の突拍子のない言葉に顔には出さず息を呑んだ。

「例えば、あなたとあたしの母親が死にかけてて、私がどちらかを助ける権利があるとする。そうなったら、あたし、母さんを助けたいの」

「それでもいい。他に大切な人が出来たら捨てたっていい。俺だけを愛せ、とは言わない。ただ、それは俺には隠してほしい。……寂しい、からな」

 筋骨隆々の大男の台詞にしては情けないだろう。けれど、それが黒岡の本心だった。

「あたし、あなたの一番にはなれないよ。逆も然り。あなたはあたしの一番にはなれない。絶対にね」

「……それでもいい。それでいい」

「別にあなたが嫌いってわけじゃないの。ただ、あたしがあたしを好きってだけ」

 だから、そんな彼女を愛しく思う。恋しく思う。そんな彼女に惚れている。

「俺は君が好きな君が好きだよ。君が思っている以上にな」

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