サイバーコーラの味

 気が付くとよく知らない部屋に立っていた。


 777階建てのアパートの666階の4号室が自分の部屋のようだ。


 右手を3回鳴らして戸棚をあけてヘルプを見ると


 セーブポイントとして指定するといつでも帰ってこれるファストトラベルようだ。


 疲れないとしても666階も登るのは単調すぎてつらすぎる。


 外に出てショップを眺めてみようとおもい、外出した。


 ショップの前に立つと勝手にウィンドウが開いて商品がみられる。

 ここは飲食物を売る店のようで牛乳やら、コーラやら売っていた。


 実体のないデータに普通の値段をつけられていたので

 逆に興味が出て1本飲んでみることにした。

 BUY!と書かれたボタンに触れると電子マネーから1本分引かれて

 コーラの缶が手元に現れた。

 飲んでみると実際にコーラの味と炭酸の刺激があって驚いた。


 次は乗り物屋をのぞいてみる。

 バイクはもちろん象や馬なんかもあったが、とてもじゃないが買える値段じゃなかった。

 事故を起こすくらいバイクが好きなのでバイクを見てみると、ずっと昔のおれが生まれる前のゲームに出てくるような、これ曲がれるのか?と疑問になるようなローポリゴンの代物から実写そのままのものまで色々あり夢が広がってしまう。

 値段ももちろんものすごい幅があったが。


 なるほど、産業になるわけだと思い自室に帰るファストトラベル


 コンソールを開いて、両親と友達宛に落ち着いたら連絡するから遊びに来てほしいとメールをして標準アバターでなく、元の自分の姿オリジナルで会うためにアバターの制作を始めた。


 アバター作成の基礎が本当にインストールされている上に、目の前にあるものをこねくり回すだけでいいので思ったより簡単にモデリングすることができた。


 その後、3週間もかかって元の自分の姿オリジナルを作成すると、アバターを事務局に申請した。

 申請には申請手数料が必要なのだが、

 自分用に作成する場合は1体に限りサービスしてもらえるようだ。


 事務局では危険な能力がないか審査し、問題がないとなれば使用許可がでる。

 おれの場合は3日後に使用許可が出た。


 胸と腹の間のボーンの可動域を間違えて直角に曲がるようになってしまったが

 習作として残しておこうと思う。


 別にモデリングの仕事はしなくても現実世界のおれの脳が空き領域で勝手に仕事をしてくれているので少しずつ貯金口座に入金されているのだが、現実世界で暮らすためになら足しになるのだが、機械の体を手に入れるには何十年かかるかわからないので仕事はしたい。


 ここで暮らしてる間のアバター用の服やバイクもほしい。

 人はお金を使わずにはいられないらしい。


 何も食べなくてもいいというのがいいところなのだが、必要がないとしても美味しいものは食べたいと思うようになった。


 外を歩くとワイヤーフレームの屋台が並び、美味しそうな匂いがしてきた。

 ヘルプを開くとここはワイヤーフレームアベニューというらしい。

 道全然狭いが。

 対アバター当たり判定をOFFにして屋台の食べ物を見て歩く。


 どうやらメタヴァースの中でも日本にいるらしく、屋台で売っているものは見慣れた焼きそばやたこ焼きなどだった。

 これもこの世界で作られたアイテムなんだとするとパラメータの設定を考えるのが気が遠くなりそうだった。

 ふらふら歩いていると焼き鳥屋の屋台のお兄さんに話しかけられた。

「にいさんにいさん、あんた初心者ルーキーだろ、1本サービスしてやるよ!」耽美な焼き鳥屋の、お世辞ではなく耽美なアバターの焼き鳥屋のお兄さんは塩のねぎまをくれた。

 早速食べてみるとぷりぷりのもも肉にいい塩梅の塩コショウがかかっていて今まで食べた中で一番美味しい焼鳥かもしれない。

「ダイブインして3週間ですけど、ずっと自分のアバター作ってましたね」と答えると

「だろうねぇ、ここじゃ普通の格好なんかしないもんさ」と言って顎で後ろをしゃくった。


 景色を見ることに夢中になりすぎて人なんてNPCくらいにしか思っていなかったが全部人だったんだな、と思って見てみると、たしかに骸骨メカやらアニメの恐竜が歩いていた。

 普通の人に見える人はじっと見るとその人が公開してもいい程度の情報が表示されたウィンドウが表示された。

 どうやら腰から下げているキーホルダーに見えるものは乗り物が仕舞ってあるアイテムで、その隣の人が腕につけているのはどこかで見た変身ブレスレットだった。


「あぁ、なるほど」耽美なお兄さんにいうと、

「初心者狙って色々あるから気をつけなよ!」と言って親指を立てた。

 なんか変だな、と思ってよく見てみると、ナイル職員による案内人兼焼き鳥屋だった。


 色々手厚いなと思って散策して次に作るアバターの発想につながるなにかを探したが変なアバターが歩いているだけか普通に人が通るだけなので特に面白いこともなく、ただただ散策するだけだった。


 作るアバターに制限とかあるのかな?とヘルプを開く。

 著作権さえ切れていれば昔の資料から書き起こしても問題はないようだ。

 実在の人物でも架空の人物でも架空の生き物でもいいらしい。


「ここまで初心者ルーキーが来るとは珍しいな」

 今日はよく話しかけられる。

「ここまで来たってことはこれが目当てだろ?」と3cmくらいの紙の包みをちら、と見せた。


 ここまで?と思って周りを見渡すとワイヤーフレームアベニューではなく人通りの少ない夕闇通りという所まで来てしまっていた。


 これが噂の電子ドラッグか。

 まだ生きていた頃にニュースで見たことがある。


 生身の脳でダイブインしてこれを開くと視覚から入る電気信号によりドーパミンやエンドルフィンが異常分泌され多幸感を得ることができるそうだ。

 自分で出すものだから依存しないという話だが、精神的な依存が起きてしまい社会生活に支障をきたすプレイヤーが多いらしい。



「残念だったな、脳は捨ててきたんだ」というと

「チップに効くのもあるぜ、依存性なしだ」といって黄色い包みを取り出した。

「そんなバカなこと聞いたことないぞ」

「新しく出来たんだからまだ知ってるやつは少ねえ、最初だからな安くしとくぜ」

「ちょっと使ってみてくれよ、安全だと思ったら正規の値段で買うよ」

 というと売り物に手つけるわけねえだろ、と言ってどこかに消えた。

 しょうがないのでおれも帰ることにして、念の為ワイヤーフレームアベニューまで戻って人混みに紛れてから帰還ファストトラベルした。

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科学技術の進んだ世界で肉体を捨てて自由に生きます(仮) 白澤建吾 @milure

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