アマノ ヒトシ

電脳世界で生活します

 半年前のことだった。


 つい、悪ふざけをしただけだったのだ。


 バイクでコーナリングをちょっとせめてみただけだったのだ。


 あの映画のようにかっこよくドリフトしてみたかっただけなのだ。


 山の曲がりくねった道を2回は成功した。


 自分には才能があると勘違いしたんだ、


 横に滑ったままタイヤはグリップを取り戻すことなく、


 谷底にバイク毎ダイブした。


 幸いにも仲間が追い付いてきた時に迅速に救急車が呼ばれ


 2週間生死の境をさまよった。


 しかし目が覚めたら首から下が動かなくなっていた。


 幸い今は技術も進んで脳を移せばアンドロイドにもなれるし、


 脳をチップにして完全なロボットになることもできた。


 じゃあ、最新モデルの電磁誘導モーターがついた足にしてもらおうかなと


 親に相談したらアンドロイドは安くなったとはいっても


 全身買おうとすると最低ランクのものでも年収の4倍はかかるという絶望的な


 話が伝えられた。


 じゃあ、じゃあ結局このままかよ!と叫ぶと


 あとは、脳をチップに移して電脳空間サイバースペースで生活するといい、とアドバイスされた。


 親もアカウントを持っているのでいつでも会いにいけるから、と


 まるで死者を前にしたようなものいいにちょっと腹が立ったが、


 選択肢はなさそうだった。


 ナイルという会社から病室に人がきて、親と一緒に契約を進める。


 契約書に書けないから代理でサインしてもらう。


 はいはい、と適当に聞き流しサインする。


 おれは電脳空間サイバースペースで移り住む先を決める。


 別にモンスターと戦いたいわけじゃないし、いつか体を作って戻ってこれるように


 仕事もしなくてはいけない。


 ということでメタヴァースに住むことにした。


 基本アバターを選び車いすでナイルに連れて行ってもらい、


 両親、友達と向こうで会おうと約束をして別れた。


 気が付くとしらない姿でしらない街の入り口に立っていた。


 受付らしきNPCのところへ行き、移住の手続きをする。


「メタヴァースへようこそ!移住の方はチュートリアルを受けることができます!」


 とわざとマネキンっぽくモデリングされたNPCは同じセリフを繰り返した。


「チュートリアル」というとNPCの首がぐりんと周りこっちを向く。


「アマノヒトシ様 ようこそメタヴァースへ!」


「この街にあなたの部屋が用意されております。後ほど転送いたします。


 この街の主要産業はアバターのモデリングです」


「やったことないが」


「メタヴァースに移り住む際に脳チップに作成方法はインストールされております」


「その他不明点は右手で3回指を鳴らし、


 左手で頭の上の戸棚の引き戸を開ける動作をするとオープンする


 ヘルプをご覧ください」


 といってやって見せた。


「では、よい旅を」そういってカタカタ笑いながら


 おれを自分の家とやらに転送した。

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