第17話 震え

事務所に戻り、自分のデスクに着いた途端、

はぁ…っと深く呼吸した。


それと同時に恐怖も押し寄せてきて

指先が小刻みに震える。


落ち着かせるために何か

あったかいものを……と

給湯室に立とうと思ったけど

足にうまく力が入らず

立ち上がることができない。



コンコンッ


「…上野さん!」

「坂下さん…っ」


「あのっ…わたし…」


坂下さんはスタスタと入ってきて

事務所を見回すと

そのまま私のデスクまで来て


ガバッと抱きしめてきた。


「……」


何も言わないまま

グッとチカラが入る。


「…あの…?」


小さく身じろぐと、ふっと腕の力が緩む。

「ごめん、つい…無事でよかった、ほんとに」


「…っ…」

言葉が何も出ない代わりに

涙がこぼれる。


「ひっ…あ…ごめんなさい…っ」

嗚咽を止めることができない。


「…怖かった?」


こくこくと頷く。

優しく頭を撫でてくれる。



「あー…本当はオレが助けに行きたかったわ」


その言葉にパッと顔をあげる。

一瞬、固い表情をした坂下さん。

すぐに、いつもの柔らかい表情に戻ったけれど。


じっと坂下さんを見上げていると、

ふっと笑いながら近づいて


「その顔さ、他のやつに見せないで」

耳元で囁かれた。


「えっ…?」

思わず赤くなってしまう。


「それね。可愛すぎるから」


「……っ」

「涙とまったね。

今日は仕事にならないだろうし

ぼちぼちね」


「はい…」


名残惜しそうに頭に残る大きな手が

ゆっくり離れていく。


「俺も仕事にならないかも」


いつもの坂下さんの笑顔。


やっと体温が戻り、震えがとまった。

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