第16話 救出
坂下さんと付き合うことになったと聞いて、
真っ先に「よかったじゃん」と出てきたことは
本当によかった。
俺があいつにしてやれることなんて
もう何も無いのだから。
「失礼しまーす」
パソコン越しに見えた、噂の彼氏。
「…お?立花くんだけ?」
「今日はだーーーれもいませんよ」
「え?上野さんも?」
「あ、上野さんは書庫ですね」
「書庫?ひとりで?何してんの?」
「整理するって言ってましたけど」
「ふーん…」
あ、こいつ絶対行くな。
「おっけー!じゃ!」
ほらな。
わかりやす。
「あ、そうそう!昨日、俺」
「付き合うことになったんですよね?
おめでとうございます」
なんとなく早口になる。
「情報早くね?」
「さっき聞いたところです」
「いいなぁ、俺も事務所で働きたいわ。
立花くんと仕事したいわ。」
「いやいや、俺じゃないでしょ」
笑いながら事務所を出ていく坂下さん。
色気のあるいい男。
「はぁーーーあ!」
終わらない仕事に八つ当たりするみたいに
資料を作っては印刷した。
どれくらい経っただろう。
そういえば、綾菜が戻らない。
時計を見ると、もう既に1時間以上経っている。
書庫の鍵はあいつが持ってたはず…
とりあえず様子見てみるか。
席を立つと同時に電話が立て続けになり、
やっと書庫へ向かったのは
30分後だった。
書庫の扉は閉まっている。
ガチャガチャ…
鍵がかかってるけど…
引き返そうとしたとき
ドンドンドンドン!!!
「裕貴!!!」「うおっ!!!!」
なんだよ!びっくりした!
「扉が開かないの!助けて!」
「えっ!!マジか!??」
「ちょっ…離れてろ!」
思いっきり扉を蹴り飛ばすと
メキッとヒンジが歪んだ。
そのままもう一度思い切り蹴り飛ばすと
バキバキ!と音を立てて、扉が割れた。
「あやな!」
思わず叫ぶと、
奥の方で涙目になっている綾菜を見つけた。
「ゆうきー!!!」
駆け寄ってきた綾菜を抱きしめた。
怖かったんだろう。
小さく震えて泣いている。
ほっ…よかった…。
「どうしたー!!」
「大丈夫かーーー!!?」
蹴り飛ばした音と叫び声を聞いて、
工場の人達が集まってきた。
バッと綾菜を引き離して、
工場長に事情を説明する。
扉を壊してしまったので、
業者に連絡するように指示され、
綾菜は事務所に戻った。
書庫の中を見ると、なぜか床一面書類だらけだ。
広くはない密室。
かなり不安だっただろう…
ぎゅっと胸を締め付けられた。
「立花!」
「坂下さん」
慌てて走ってきた坂下さん。
かなり息があがっている。
「上野さんはっ?!」
「さっき事務所に戻りましたよ。
…すみません、俺…」
咄嗟に何を謝ろうとしたのか自分でもわからない。
「いや…気づいて助けたんだって?
ありがとう…って俺が言うのもおかしいけど」
「…いえ…」
変な沈黙。
ふたりとも、綾菜のことを考えているんだろう。
元彼と今彼が2人になると、こうなるのか。
「上野さんのところ、行ってください」
俺がそう伝えると、坂下さんは
ポンと俺の肩を叩いて、走っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます