「血痕」

低迷アクション

第1話



「“小村 正一(こむら しょういち)”が“大沼 明子(おおぬま あきこ)”と結婚する

らしいが、どう思うよ?」


と“T”に聞かれた時、正直、返答に困るのは、無理ないと思う。


我々にとって、学生時代の共通の友人である小村は、卒業した後、固い仕事に務めていたし、性格は温厚、友人も多く、職場の評判も悪くないと言う。


それに対し、妻となる明子の方も、少々、押しは強いが、元気でさっぱりした性格の

キャリアウーマン、小村とも仕事の関係で出会ったと言うが、交際を申し込んだのは、彼女の方からだとの噂もある。


「別に、俺達、独身野郎が言える立場じゃないだろ?お互い好いてるから結婚する訳であって、口出しは野暮ってもんだ」


「まぁ、そうだな」


こちらの言葉に、Tは少し含みのある答えを返してくる。


「何だ?何かあんのか?」


「いや、2人はそりゃ、両想いのは当たり前なんだが、小村の家族がな」


結婚を認めるのを渋っているのだと言う。


「特に、今年98歳で、足腰しっかりの婆さんが一番、反対をしているみたいだ。

理由?いや‥‥俺もよくわからんけど、何か、気にくわない事でもあんだろ?」


何処か煮え切らない様子のTだったが、人の幸せより、自身の幸せが常に危うい、こちらとしては、それ以上、話を広げる気にもならず、別の話題にさりげなく切り替え、小村の結婚話を終いにした。


次に、彼の話を聞いたのは、半年後だった。


「小村がいなくなった」


妙に、冷静なTの言葉に、こちらは少なからず驚いた。何でも、新婚生活1ヵ月目の

事だったと言う。妻の明子が、朝、起きると、隣に寝ていた小村がいない。


先に起きて、仕事に向かったのか?昨夜は、そんな事は言っていなかった。居間や風呂場、トイレにもいない。夫の会社が開くのを待って、電話もしてみた。


会社からは出勤してないとの返事…その筈だ。玄関には夫の靴が残っていた。鞄もあった。妻は、所持品を調べる内に、小さな異変を見つける。


「小村の革靴にさ、血が一滴ついてたんだと。警察も呼んで、調べてもらったら、小村ので、間違いないようだわ」


それ以降、小村の消息は不明となっている。妻によれば、生活の中で悩みやトラブルを抱えている様子は無かったと言う。


「そう言えば、前に、結婚の話した時、何か、腑に落ちねぇって顔をしてたな。

ありゃ何だ?」


「‥‥いや、正直、最初から何かなって思ったけど、その何かが、よくわからなかった。ただ、小村のバーさんも心配してるって言って、得心が言ったっていうか。やっぱ、そうだよなと思って…」


「ハッキリしないな。言ってみろよ?」


まだ、確証のないと言った様子のTを促す。彼は苦笑いのような口調でこう言った。


「いや、なんつーかさ、やっぱ、小さいのは大きな沼に呑まれちまうかなって、思ってな」


小村は今も見つかっていない…(終)

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「血痕」 低迷アクション @0516001a

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