第35話 蓮がいない3日間 3

 蓮が実家に帰って二日目。部屋にいればチシャ。図書館には葵先輩と、俺にくつろげる場所はなくなった。流石に三人に告白されて、うやむやに今まで通りなんて到底無理。なのでどこか落ち着ける場所で悩みたいんだけど……。

 考え事に適してそうな場所が思いつかない。いっそ実家に帰ってしまいたいけど、あっちには蓮がいるし。


「あーもう!なんで俺なんだよ!」

「わっ!」


 叫んだ瞬間、甲高い声が聞こえ振り返る。驚かせてしまったことに謝ろうと、声がした茂みを覗くと。


「楓?」

「お兄ちゃん!もー急に叫び声が聞こえたからビックリしたよ」

「ごめん……」

「いいよ。てか私でよかったね。他の人に聞かれてたらお兄ちゃん、完全にヤバい人になってたから」

「たしかに……」


 いくら切羽詰まっていたとは言え、公共の場で叫ぶのはダメだ。よし、一旦落ち着こう。

 あ、この辺りなら考え事に適してそうだ。それにもしチシャや葵先輩が俺を探していても、楓に事情を話せば上手く躱してくれるかも。


「ねぇ、楓はまだここにいる?」

「私?いるけど、どっか行って欲しいの?」

「違う違う!むしろ居て欲しい!」

「ふふっ、そんなに必死に言わなくてもいいのに。いいよ、いてあげる」

「ありがとう……それと俺を探している人が来たらさ、上手くはぐらかして欲しいんだ」

「分かった。じゃ、私は本読むから」

「うん」


 楓は俺のお願いの意味について深く聞かず、傍においてあった本に開く。俺は楓が座っていたベンチ裏の茂みに隠れるように座る。

 深く聞かれないのは有難いけど、楓ってこんなに協力的だったか?ゲームの楓は真琴に対して、嫌悪感を全面に出してた気がする。


「大丈夫だよお兄ちゃん。誰かが来ても私がちゃんと守ってあげる」


 俺の視線に気づいたのか、楓はこちらを心配してくれる。その顔に不信感や嫌悪感は感じられない。むしろ頼もしささえ感じられる。


「ありがとう」


 ……あんまりゲームと混同して考えるの良くないな。蓮、チシャ、葵先輩の三人が告白してきた。いくらゲームのようなウィンドウや好感度が見えるとはいえ、流石にもうゲームの世界なんて割り切れない。

 繋いだ手やこちらを見つめる目は、全部温もりがあった。俺にとって彼らはもう、画面越しの絵じゃない。

 今更こんな当たり前のことに気づくなんて、本当に俺ってダメなやつだな……皆より大人なのに。


「はぁ……」


 ダメさ加減にため息が出るけど、今は反省よりも考えに集中しなきゃ。明日の夜には蓮が帰ってくる。告白を宙ぶらりんにしたまま、以前のようには過ごせない。だから自分の気持ちをハッキリしないといけない。

 だけど恋愛なんてした事ないから、好きの気持ちがよく分からない。友情の好きと恋愛の好き、俺には二つの違いがよく分からない。はぁ……世の中の恋人たちに聞きたい。好き、ってなに?


「分かんねぇよ……」


 ダメだ。頭がパンクしかけてる。ちょっと横になって休憩しよ。

 昨日はチシャと先輩が遅くまで喧嘩していた。それに告白されてから、夜もあまり寝ずに考え続けていた。そのせいか今、すごく眠い。


「ふぁ……」


 ちょっとだけ寝ようかな。楓が見張ってくれるなら、邪魔されることもないだろうし。

 心地いい風と草木の匂い。眠るには最高の環境。その甘い誘惑に負け、船を漕いでいた俺は呆気なく眠りに落ちていった。


 *


「お…………きろ」

「んっ……あとちょっと……」

「起きろ」

「っ!」


 バチン、と乾いた音と共に頬に痛みが走り飛び起きる。


「痛って!!」

「やっと目を覚ましたな」

「なにも叩くこと……」


 叩き起してきた相手の顔を確認して言葉を失う。


「なん……で……」

「ふふっ、やっと会えたね真琴」


 そう言って手を伸ばしてくるそいつは、俺と同じ顔をしていた。

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逆ハーレムもの乙女ゲーに悪役として転生したら、なぜか俺が逆ハーレムを築くことになってしまった件 もち @mochitori

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