第34話 蓮がいない3日間 2
「真琴ーどこ行ったのー?あっちかな……」
「……はぁ、何とかまけたかな」
チシャの告白の直後、どう答えればいいのか分からなくなった俺は逃げた。あのまま一緒にいたらダメな気がしたから。とにかく今は一人になって考えたい。蓮のこともチシャのことも。
部屋には戻れそうにないので、どこか一人になれそうな所を探す。できればチシャが探しに来ないところがいいけど……。あ、そういえば図書館には魔物よけの結界がされてるって、葵先輩言ってたな。
流石に連休中に図書館で過ごす人なんて居ないだろう。考え事をするにはちょうどいい場所だし、今日はもうそこでゆっくりしよう。
「あっ」
「やぁ」
図書館で落ち着ける席を探していると、葵先輩がいた。
「葵先輩、こんにちは」
「こんにちは」
「先輩も学校に残ってたんですね」
「家に帰ってもつまんないからね。本がたくさん読めるここに残ったんだけど、正解だった」
「……」
「君に会えたから」
「は、ははっ、先輩にそう思われるなんてコウエイダナー」
あえて聞き返さなかったのに、自分から言ってくるなよ。……やっぱ嫌な予感するから別の所に行こうかな。流石にこれ以上は抱えたくない。
「待って」
立ち去ろうとすると、先輩に手首を捕まえられ止められた。
「わざわざここに来たってことは、用があるんでしょ?せっかくだし俺といようよ」
「いやー……先輩の勉強を邪魔するのは申し訳ないので……」
「邪魔じゃないよ」
「でも、他に席もありますし……」
「ここでいいじゃん。分からないことがあったら前みたいに、俺が教えてあげるからさ」
「今日は勉強しに来たわけでは……」
「ね?」
「…………はい」
はいかイエス以外の答えは許されそうにない圧に負け、先輩の斜め前の席……に座ろうとしたらまた圧力をかけられたので前の席に座った。
「真琴くんは本、取ってこなかったの?」
「あ、俺はちょっと……」
「ふふっ、もしかして眠りにきたとか」
「えっ」
先輩の予想外の言葉に呆気に取られる。真面目な人だと思ってたから、そんな発送があるなんて思わなかった。
「結構いるんだよ」
「そうなんですか……」
「ここなら日光に当たりやすいし、昼寝にはうってつけだからね」
「……」
「今日の君は何だか疲れてるようだし、少しでも眠って休んだらいいんじゃない?」
優しい声色と、窓からさす日光に、段々まぶたが重くなってくる。眠るつもりなんてないのに、ゆっくり蓮とチシャのことを考えたいのに。
「大丈夫、誰にも邪魔はさせないから。ゆっくり眠ったらいいよ」
「じゃあ……少し、だけ……」
結局、睡魔に負けてしまった。少しだけと思いながら、机に腕枕をして眠りに落ちる。
「おやすみ」
*
『ま、こと……はやく……ぼく……に、あいに……きて……やくそく……ぼくを…………たすけて』
「真琴くん」
「あっ……」
目を覚ますと、外から指す光は赤色になっていた。こんな時間まで眠るつもりはなかったのに、熟睡しちゃったんだな。
「大丈夫?少し、うなされていたような気がしたんだけど」
「へっ、あー……そう、ですか……」
「途中までは気持ちよさそうに眠ってたけどね。怖い夢でも見た?」
怖い夢だったんだろうか。ぼんやりとすらも覚えてないけど、怖いというよりは悲しい夢だったような。多分だけど、大切な人がいたような……。
「真琴くん」
ひらひらと、目の前で手を振られハッとする。
「すみません、ボーッとしてました……」
「謝ることはないよ。大丈夫ならいいんだよ」
「はい……」
「でも流石にぼんやりし過ぎ。部屋まで送るよ」
「いや、そんな、先輩の手を煩わせるわけには……」
「青白い顔の君をそのまま帰すのは心配なんだよ」
「心配されるほどではないんで大丈夫ですよ」
「いいから」
そう言って、先輩はまた俺の手首を握って逃がさない。蓮やチシャのこともあるし、あんまり攻略対象者たちとはいたくない。だけど、心配してくれている人の手を振り払うなんてこと、俺には出来なかった。
男同士で手を繋ぐなんて変なの。でも、誰かと手を繋ぐなんていつぶりだろ。本来なら俺の方が年上なのに、年下の先輩と手を握って落ち着くなんて。色々弱ってんのかな。
……そう言えば、この世界に来る前の俺はどうなったんだろう。もしかして死―――。
「着いたよ」
「あっ……」
元の世界にいるはずの自分について考えていたら、いつの間にか自室まで来ていた。
「ねぇ、本当に大丈夫?」
先輩の顔がすぐそこの距離にあったのに気づかなかった。こんなに近づいたらダメなのに、身体が鈍っているせいで離れることが出来ない。
「……このまま一人にするのは怖いし、今日は俺の部屋に泊まった方がいいよ」
「いや……悪いんで大丈夫ですよ……それにチシャが……」
名前を出したことでハッとした。そうだ、今夜はチシャがいるんだ。蓮がいないから必然的に二人きりになっちゃうし、どうしよう……。あの大人の姿のチシャといるのはどうも気まずい。
「真琴くん」
「……」
「じゃあさ、君の使い魔であるチシャくんと一緒に泊まる?」
「いや、そんな……迷惑ですよ……」
「大丈夫、僕の部屋は特待生で広いからさ。二人分くらい余裕だよ」
「……」
「一応、了承は得てからの方がいいんだけど。君の事がとても心配だから、無理やりさらっていくよ」
目線を合わせ、手を握って先輩は優しく語りかけてくる。
「葵先輩……」
「真琴!」
提案に頷いた瞬間、大きな手が伸びてきた俺と先輩を引き離した。その腕の主を辿ると、焦った顔の大人のチシャがいた。
「良かった……ずっと見つからなかったから、なにかあったんじゃないかって……俺、心配で……」
「チシャ……」
「ごめん、困らせるつもりは……なかったわけじゃないんだけど、こんなに逃げられるとは思ってなかったんだ……」
「いや……俺も逃げてごめん……」
「ううん。やっぱあっちの俺の方が真琴は安心だろうから、戻るよ」
そう言ってチシャは、見慣れた男の子の姿に戻った。
「……じゃあ、話もついたようだし行こうか真琴くん」
「んにゃ!お前、真琴をどこに連れていくんだ!」
「何処って、俺の部屋だよ。自分のことしか見えてない君には分からないんだろうけど、真琴くんは今すごく顔色が悪い」
「えっ……真琴、どこか悪いの?」
「いや、大丈夫だとは思うんだけど……」
「そう真琴くんは言うけど、俺は心配だから今夜は一緒に過ごすんだよ」
「だったらお前じゃなくてもいいでしょ。今夜は僕がいるからお前は一人で過ごせ」
「……うっとおしいな」
「お前ウザい」
「は?」
優しい葵先輩の面影は一切消え、チシャとの口論が始まった。それを前にして俺は驚きよりも、早く部屋で休みたい気持ちでいっぱいだった。
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