第26話  天の声


「ちょっとまった、いま『上位世界』とか『この世界』と言ったか?」


『あなたが『地球テラン』の出身でここエディンと別世界から来たことは把握してるつもりアルね』


「何故この世界に来たのか、いや、元の世界に戻れる事は出来るか?」


『二番目の問いには答えられるけど、『元の世界への帰還』は可とも不可とも言えるアル

 元の世界の貴方の肉体は地球時間で言えば一ヶ月ほど前に消滅したので、魂と霊体のみなら今すぐでも移動可能だけど肉体の器無しだと消耗激しくて三分か五分で霧散して意識、いや自我も失う事になるアルね』


『この世界で霊格レベルが上がって物質操作マテリアル・オペ出来るほどになれば星幽体アストラルで界渡りして、移動先で肉体再構成するのも出来るだろうけど、それが何時になるかははっきり言えないアルね、ざっくり言えば50年以上とも7年未満かもしれない、くらいネ』



「死んだのか……おれは……」



『『肉体の喪失』を『死』と定義するならその通りアル、でも『自我の保持』と言うなら『死んでない』とも言えるアル、誤解ないように言っておくけど「アンデット」になったわけじやないアルよ

この世界で無茶な事すれば肉体損傷次第では『死ぬ事になる』アル、ただこの世界の人間に比べて死ににくい身体になっただけアルよ』


「この世界で死ねば元の世界に戻る、と言う事は?」


『『目覚めたら元の世界のベットの上』と言う事はないネ、元の世界の肉体が無い以上この世界のシステムに組みこまれたままなので経験値削減のデスペナルティー受けて『再出現地点リスポーン・ポイント』で肉体再構成となるネ』


「死んだらその場から消える。と言う事か」


『死亡判定受けた時に再出現地点へリスポーンの転送望むか、他者からの蘇生処置待つか、の確認来るアルよ

ただし『蘇生リバイブ』は3時間以内、それ以上時間たつと『復活リザレクション』の神術が必要となるネ、当然術者本人が死んでいるときは自分自身に術は掛けられないアルよ。

 転送拒んだ時、仲間が神殿に運ぶまでは上位世界の存在も介入は出来ないので遺体はそのまま』



「それで?」


『『この世界でのヒトとしての生の継続を望まない』のなら野生動物アニマル植物プランツへの生まれ変わりになるだろうネ、その場合希望する転生先は選べないアル。

 まぁ救済処置として5レベルダウンの経験値失って転送要望すればリスポーンは受け付けられる。そんなことにならないよう死んだ時は素直に転送される事勧めるネ』


「その場での『復活リザレクション』は可能か?」

ゲームだと戦争イベント使用前提の課金アイテムがあった、リスポーンポイントからの移動時間惜しむ連中は決して少なくなかったからだが……


『【身代わり人形】の事言いたいのだろうけど、あれは『致死攻撃を受けて戦闘不能』を回避してライフポイントが1だけ残る消費アイテムあるネ、死亡したキャラ蘇生アイテムとは機能が違うネ。複数PTレイド戦闘時なら蘇生術持ちが複数居る状況もあるけど、現状では期待しない事ネ』


「なぜだ? 『状況次第ではありうる』のだろう?」


大司教アーク・ビショップ、最低でも司教ビショップが前線に出るのは『聖戦発動ホーリー・ウォー』された時くらいネ

そして聖戦宣言はヒト族ヒューマン主導である事を四カ国が認めた時アル』



 ヒト族主導、それはすなわちホーリーライト王国が決定権を持つと言う事に等しい。

 40年前の聖戦発動は『異界からの侵攻』が誰の眼にも明らかになった為であり、彼らと対決する事がこの世界の防衛のため四カ国共同で事に当たるのが必須だと首脳達が決意したわけで、当時人口と兵力、食料生産量など国力の面からホーリーライトが主導権を持った。


 だが、侵攻軍は撃退したが異界からの侵入口はついに見つけられなかった。 


 侵攻軍は退却したのではなく、大将格の魔物が勇者と相討ちになったとき、残りの魔物は空気に溶けるかのように消滅したからだ。


「撤退した」とも考えられるし術の維持が切れただけとも考えられたからである。


 戦闘後、大軍の動いた痕跡を広範囲にわたって探したが、ある地点でぷっつりと途絶え、まるで宙から湧き出たとしか考えられない、と言うのが四カ国から選出した調査団の結論だった。


その後三年ほどは異界からの再侵攻を警戒していた四カ国連合だったが、いつまでも戦時体制のままでは国内の経済が廻らないという貴族と商人の声を抑えるのは困難という理由でホーリライト王国は聖戦勝利宣言を出す事を決定した。

 宣言を出す事それ自体には残りの参加国も異論は無かったが、「勝利の果実」と呼べるものが何も得られないことが禍根を残す事となる。






『説明が前後したけど『この世界に来た理由』については少しだけ話しておくね

 エディンは三軸の魂の性質によって27のマトリクスで構成されてる設定となっているアル

 わかり易いイメージにするなら前後・左右・上下の立方体の集合構造ネ、前世のルービックキューブをイメージすれば近いアル 』


『その魂の三軸とは|進歩((プログレス))か|後退((レグケス))か、|秩序((コスモス))か|混沌((カオティック))か、|光((ライト))か|闇((ダーク))か、が基準アル』

『|紛((まぎ))らわしいケドこれらには善悪の区別はないネ、それは立場の違いでどちらとも言えるからアル」


「どうしてだ? 前者と後者では一般に前者の方が【善】となるのでは? 」


『わかり易い例で言えば、秩序がカチガチな世界は自由を欲する魂にとって|暗黒郷((デストピア))と言われるネ、たとえ深夜でも電灯が煌々と照らしていてもネ』

『同じく|闇(ダーク)もそれに安らぎを感じる存在も悪と断定するのは危険アル』


この三軸を三次元世界で仮定すれは

前後を進歩・後退、左右を秩序・混沌あるいは法と自由、上下を光と闇に分けて

その組み合わせで中心世界から六方向へ移動する「面移動」、一二方向に移動する「線移動」

中心世界から角の位置となる八方向への「点移動」

その世界を構成する魂の総量により二七の世界がくるくると階層を入れ代わりながらバランスを保つ


現状のままだと変化を失い|緩やかな熱的死((ヒートデス))を迎えるらしい、ようわからん


『ぶっちゃければ【サービス終了のお知らせ】と言えば伝わるかネ』


開始から何年になるか忘れたがそんな話が出ても不思議じゃないか、もう死んだ身だけど


『ちなみに君のやってたゲームはまだ続いているアルネ』


うっ、聞きたくなかった、しくしく


『まぁ、サーバーの統廃合で消えたサーバーのデーターを元にいま話をしている我々が居るわけで

 活力を取り戻す試みとして【死せる魂】をサルベージしたね、ここは納得してネ、話が進まないから、かっこわらい』


そこ、語尾を手抜きすんじゃない




『【ミニハウスの制限解除】にはこの世界の家具店から家具を購入して配置することで

 ハウスの魔力値次第で生産施設や|倉庫(ストレージ)を使う事ができるネ』


『ゲームでリアルマネーで購入してた課金アイテムを手に入れるには|天界商店(モール)と接続する必要が在るけど、四カ国それぞれに土地を手にする事、ハウスは移動可能にしておいたから四つも買う手間は省いたからネ、感謝してほしいアル』


おっと、肝心な点を確認せねば


「課金アイテムはゲーム内通貨で購入可能なのか? リアルマネーをチャージするのは不可能ぽいが」


『救済処置として【ゲーム内通貨だったものはクエスト達成報酬として、リアルマネー相当はモンスター斃した経験値相当のドロップアイテム】をインベントリーから変換する事でチャージ、と変更されるようになったアルね』


『今のうちに忠告しておくけど、あくまで救済処置なので悪用は厳禁アルネ』  


「お、おう」


『|天界商店(モール)は基本この世界の住人には利用不可な存在、ゲームプレイヤーを楽しませるため【便利なアイテム】を課金という形で具現化したものアル』


『その便利アイテムを【リアルマネー】の縛りがなくなればどうなるかは想像できるネ?』


「モンスターの乱獲・・・」


『クエストは受託できるレベル制限という形で発注元が決められる、これは所属国の機関のはなし

ドロップ品は手に入れられるか否かは【運】という形で君達は認識してるだろう

プレイヤーの間では「物欲センサー」と呼んでいるらしいアルネ』


「物欲センサーって実在してんの?!」


『我々の間では【|業((カルマ))】と呼んでるネ』


ほぇ・・・エンジェル・ロウ(天使のおきて)のタイトルのわりに仏教的なんだ・・・




『タイトルは西洋的だけど世界観はゴッチャあるね、かっこわらい』


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精霊大陸紀行 @plekios

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