第21話 元騎士団長が涙を流しながら訴えたその理由とは……
僕たちは街での買い物をすませると、そのまま家に帰り、母さんを連れて廃教会へと向かった。
ノエルが王国騎士団に見つかったらどうしようかと思ったけど、特に問題に見つかることもなく無事につくことができた。
「見つからずに教会までこれて良かったね」
「彼らは優秀だからね。もし私がここに逃げ込んだと思っていても、ボットムの街中をこんなに堂々と歩いているとは思わないわよ」
たしかに、逃亡犯が街の中心部を堂々とフードを被っているとはいえ、歩いているとは思わないだろう。
なんと言っても王様への殺人未遂の犯人なのだから。
まずは廃教会の中で雨風が防げて、僕たちが生活しやすい部屋を探す。
さすがに天井の抜けた聖堂では僕たちも寝泊まりできない。
入り口から聖堂を通り過ぎ、いつも訓練をしている塔へ向か途中、2階部分に部屋があった。
どの部屋も中はかび臭く、雨戸が締め切られていたが、その中の一室に4人が泊まれるベッドがあった。
「母さんここの部屋でいいかな?」
「そうね。3人で寝れそうな場所ならいいんじゃないかしら?」
「いえ、私は……これ以上二人を巻き込んでしまうと悪いので一人で寝ますよ」
「まだ両手に力が入らないんでしょ? 本調子じゃないのに襲われたら今度こそ死ぬわよ」
ノエルは自分の身体を無意志にだろうか、抱きしめるように身体の前で交差させる。
きっと逃げる途中相当怖い目にあったに違いない。
「大丈夫ですよ。それより、なんで目が見えないはずなのに私の手に力が入らないことを……?」
「目は見えないけどね。なんとなく感覚でわかるのよ。元騎士団長という割に動きに精細さがないわ」
「それがわかるなら、なんで……私をほっといてくださらないんですか? 本当は家を直すのだってお金を払えばいいだけですよね。わざわざ私を連れてくる必要はないじゃないですか」
ノエルは急に声を荒らげた。
どうしたのか、理解できなかった僕をよそに母さんは冷静だった。
「ごめんなさい。気づいてあげられなくて。だいぶ疲れているようね。ノエル……いいのよ。人を頼っても。王国騎士団の団長だったあなたからすれば、私たちは頼りないかもしれないけど、それでも私たちだってこのボットムを生き抜いてきたくらいの力はあるんだから」
「でも……そのために危険にあう必要はないじゃないですか。正直にいいます。私は今剣を持ってもいつもと同じように戦える感じがしないんです。剣を手に入れれば変わると思っていました。でも、何かに力を抑え込まれているような感じがして……上手く力を伝えることができないんです」
「そうでしょうね。あんたは逃げてくる時に無理をしすぎたのよ。でも、見捨てるつもりはないわよ。あなたのような子供をほっぽりだしたら夢見が悪くて仕方がないからね。それに家を直してもら時の肉体労働要員は何人いてもいいから」
母さんはそう言って微笑む。
「だって……私は王様殺しの疑いをかけられ、仲間だって思っていた人たちから追われ……もう何も生きる希望もなくなって……そんな中で私が家を直すどころか、テルたちの命だって危険になるのに……私を助けるメリットなんてないじゃないですか!」
「大丈夫よ。少なくとも私とテルはあんたを裏切ったりしない。あなたがそんなことをしない子だっていうのは私にはわかるよ。よかったじゃない。困った時に助けてくれる人が本当の友人って言葉があるように、表面的な繋がりだったことがわかっただけでも。ここから進んで行けばいいのよ。必ずいい方向へいくわ。それに……メリットデメリットだけで生きていけるほど人間できていたら、きっとここでこんなに待ち続けてはいないわ」
ノエルは今までずっと張りつめていた緊張の糸が切れたのか、人目もはばからずに大声で泣きだしてしまった。
ずっと起きてからどうするか悩んで緊張していたに違いない。
そんなノエルを母さんは優しく抱きしめ、ゆっくりと頭をなでる。
「大変だったね。あの騎士団の中で団長になるまでには、相当な苦労もあっただろうに。あんたの気持ちがわかるなんて軽率なことを言うつもりはないけど、でも、どれだけ大変で努力をしてきたのか、それは目が見えなくてもわかるよ。それなのにこんな結果だもんね。まだ若いのに……」
「私だって、グスッ、もっといろんなこと、グスッ、上手くやりたいのに、グスッ」
途中からもう言葉にはなっていなかった。
でも、どれだけノエルが一人で頑張ってきていたのかはよくわかった。
きっと、彼女の前には色々な困難があったはずだ。
それは騎士団の中に女性が少ないことからもわかる。
それにしても……母さんは誰を待っているのだろう。
貧民街に追放された王子!【聖属の力】を使って聖賢者の騎士へ駆け上がる。目指すは最強! かなりつ @KanaRitsu
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