第二話 始まりの街へ

 プレミアを出た僕は、事前の計画通り西の街道を歩く。

 小鳥の囀りがフワッと風と共に流れゆく。そんな中、乗合馬車がゴトンゴトン、パカラパカラと静寂な空間に小気味良いリズムを刻んだ。

 僕は乗合馬車が過ぎ去るまで目を閉じ、その四重奏に聞き惚れると、今一度辺りを見渡した。

 見渡す限り一面の草原。時たま遠くの方に森が見え、この街道のみが人の痕跡を示す。

 アウターハッグ伯爵領最東の街、『ナタン』。そこを目指して歩いて行く。何故ならそこには冒険者ギルドの支部があるのだから。

 冒険者ギルドは、現存する世界最古の民間機関だ。

 その起源は二千年前にまで遡り、創設者は国の支援も受けられないような辺境の村、その一農民であったという。

 魔物の被害に苦しめられた彼は、その経験故か腕が立ち、いつしか『魔物から人々を護る』という大志を抱き、そんな彼を慕って多くの人々が集まった。

 そうして以後、魔物に関する事を除き中立を旨とする『冒険者ギルド』が発足したのだ。


「プレミアに支部があったら良かったんだけどなぁ」


 冒険者ギルドの支部は基本、小国の地方都市以上の規模を持つ街又は都市、もしくは魔物の被害に苦しんでいる町村に設置されるのだが、プレミア子爵領にはない。

 理由は単純に地税が高い。兎に角高い。

 プレミア子爵領は重税なのだ。それによって物価等はそら恐ろしい程高い。

 例えるなら他領は林檎一つあたり銅貨五枚。対するプレミアは青銅貨五枚。その差実に十倍である。しかも内八割は税として持っていかれるのだから笑えない。

 その昔、先々代領主の頃。支部設置について冒険者ギルド側が交渉を持ち掛けたらしいが、白金貨千枚とかふっかけたらしい。

 そして冒険者ギルドは支部設置を断念。特に国の庇護を受けているわけではないので、資金は喝々なのだ。


「疲れた・・・」


 ぽつりと独り言を零す。大地を見やるともう影が縮み切っていた。

 昼前か昼か確かめようと太陽を見上げる。

 顔を真上へと向けると日光が容赦なく降り注ぎ、思わず右腕で両目を覆った。

 顔を下げ、往来の邪魔にならないよう、道端に寄ってから座り込む。そして荷袋を開き、携帯食料を一つ、取り出す。


「・・あむっ。むむむ」


 口の中に何とも言えない味が広がる。それと同時に量は決して多くないのに何故かお腹がいっぱいになった。


「もしかして携帯食料って危ない?」


 阿片の様に国で禁止されている薬物でも入っているのだろうか。そう思ったが、考えても分からないし、満腹なので先に進むことにした。

 携帯食料はまだあるが、不気味だしあまり食べたくない。故に午前中よりも少々急足で歩く。

 が、通常三日かかる道のりを踏破するなど当然出来ず、結局野宿することとなった。


「はぁ」


 まぁこれも経験か。

 日が暮れてきたので再び荷袋を開け枝を出す。二十本ほど重ねると、一番上の枝の中心部分にもう一本突き立て、くるくると回した。

 十分ほどだろうか。やっと火種が灯った。すかさず木屑をかけ火種が消えない様慎重に風を送る。草原故風を遮るものはないが、幸にして今日は凪のように穏やかだった。

 ボッ、と炎が着く。それは今まで見たどの炎よりもずっと雄大であった。

 お腹は未だに膨れていたので、明日倒れぬよう水を含む。暫く赤々と燃ゆる炎を見つめると、僕は横になり、泥の様に眠るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

英雄神器の継承者 琴葉 刹那 @kotonoha_setuna

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ