第2話 もう一人選ばれたのですが

 ネットカフェ アンダーワールド

 裏世界に行きたい方、募集。



 狭い部屋の中でテーブルを三人で囲んでいるものの巨漢がその空間のほとんどを有していた。が、そんなことはどうでも良かった。


 黒い飲み物。それはさながらカクテル。刺激的な味わいは夏の風物詩に何杯でも行ける。

 暑い夏に飲むのが俺のセオリーだ。そしてもう二度と届きそうに無かったグラスに息を呑む。

「コ、コーラ、久々の故郷の飲み物だ」

「ワタシは炭酸飲めないから、輸入するなら自分でどうぞー。後でやり方教えるねー」

「……」

 男はがたいにそぐわない小さくて可愛らしく見えるコップをぐぐいと口に流し込む。中身は水だ。

「……さすが我が旧友だ。ここには勤務時間とドリンクバーなるものがある」

 いや、それ水ですが。

 ドリンクバー要らないんですが。

 「フン。こんなにも早く、我が根城が決まるとはな……」

「働かないんじゃなかったのか?」

「あれから家帰ってさー。『働かざる者食うべからず』って父親と母親に追い出されたったよー」

「……」

「あんたの親。そうゆうところあるからねー」

 メタトロンは今日、ここに招集した張本人だ。

「フフ、ネットカフェと言えばパソコン。

 パソコンでカチカチやってワタシの世界に人を引きずり込むわよ!」


数時間前


「ちょっとさあ、ワタシもうちょっとこの世界に転生で来る子、増やしたいのよね」

「あっそう。現実世界から、してくればいいやん」


 現実世界つまり俺が元居た世界はメタトロンの管轄外だが、現実世界を管理する神様とは長い付き合いらしく、

 そのツテでこのアンダーワールド(メタトロン運営の世界)に生贄として、俺みたいな廃人達を突き堕としてるらしい。

「なんでよお。ツカサはやる気ないの?」

「俺みたいな被害者が出るのはちょっと気が引けてなあ……」

「大丈夫、皆んな最後は死ぬんだから」

 何も考えてなさそうな顔で等々、この世の心理説きはじめちゃったよ。

「なんか要望ある?」

「常識人で高校生の不登校。それか中卒」

「分かったわ。貴方がやるきがないことだけは分かった」

 メタトロンは頭痛でもあるかのように頭を手で抑えた。

 そんな会社の採用みたいにガチらなくても……。





 今

「まあ、こんなものかしら」

 どうやら一区切りつけたところらしい。

 それとは別に主犯格は紙の束を机に叩きつける。

 このカフェの宣伝紙〈ポスター〉だった。

「マカオ!これ街全てに貼ってきて!

 貼るところはあなたのセンスに任せるわ!」

「御意」「ちゃんと資金調達を進めないとね」

 ここはどうやら現実世界での拠点となるらしい。

 俺らはもうあっちの者だが。

 俺は共犯者。止めることができねぇ……。

「一人、神隠ししましょ」

「一人でいいのか?」

 乗り気じゃないが聞いてみた。

「沢山引き抜くと怒られる」

 そう言って、メタトロンは机に一枚の写真を提示した。

「この子」

「顔はいいけど。どういう人間なんだ?」

「フツーの子」

 ……意外だな。

「もっと面白いやつにするかと思った」

 強烈なパンチが飛んできた。

 こいつ力強ぇ……。

「そうね。面白くないから」

 メタトロンは意味深に呟いた。儚そうでいつもと違う雰囲気だ。

 何かアイツなりの基準でもあるのだろうか?



 

 存在証明。そんなものはこの世に存在しない。

 ノート型のパソコンを閉じる。プログラムで構築されている。情報体だ。

 私はそれと同じように見えた。自分は情報で何者でもないと思えた。

 なら、私と貴方達は一体何なのだろうか?

 私達は生きる意味すら知らされず生まれてきた。

 ……なんて考えるのはやめた。

 私が待つのは終わりだけ。エンドロールを待ってる。ハッピーエンドを願っている。持ってるものは無い。

 いつか、この街から消える。消えたい。

 綺麗なままで、自分を汚れなき、無垢だと信じて。

 誰かわたしを連れて行け。

 爪を噛む。正直疲れた。

 眼鏡を拭く。最後だから綺麗に。

 今日はあたしを救えない。救わない。

 机にあるカッターに手をかける。

「こいつ良くね?」

「おまっ、やめとけって、なんかヤバそうだ」

……何、この声。女と男が喋ってる。

 からかわれる気分じゃないんだけど……。

「うるせー」

 暗い一室で起こる出来事。机と刃物から手を離す。

 声の反響から始まるのだろうか?何が始まるのだろうか?

 肯定すれば黙るだろうか?

 私は自分の見せる幻影に染まる気にはなれなかった。それに家には私を除き、誰も居なかった。

 だからほんのちょっと小言を呟いた。

「あなた、その家から抜け出さない?」

 電源のついていないテレビ。光さえ映さない。

 なのに、それには自分じゃない二人の人間の顔が映った。

 ……こいつらは幻聴のやつらか?

「え?人間?手が!?」

 二つの手がテレビの中から伸びてくる。白くて細い腕が幽霊みたいだ。

「は!なんだこれ?マヨナカ○レビかよ!?」

 ちょっ、めちゃくちゃ力強いんだが!?

 このままだと中にひきづりこまれる!


「残念だけど、これは異世界にひきづりこむためのテレビだから、夜中のゴールデン番組とは違うのよね」

 マヨナ○テレビやないかい!?



 ネットカフェ アンダーワールド

 

 裏世界に来た一人の女。女って言っても同年代くらいの女の子だ。


 その子は部屋の隅っこで体育座りをしていた。

 長い髪は床に触れている。

「で?なんでわたしはこんな狭いネットカフェに呼び出されたんだ?」

「ワタシ、メタトロンが召喚したからよ。第二番目の転生者。三上栞菜」

 少女は自身の名前を知っていることに驚いた。

 俺達の顔も知らないから無理もない。

 というか話せることに肝が座ってると思った。

 メタトロンは待っていたと言わんばかりに、鼻息荒く経緯を説明した。


「やりたいことは分かるけど、行為に移すのは納得できないな。

 それに、人の生活や人生を覗いてるのは感心できない」

「ワタシは神ですけど?」

 ドヤ顔で返すコイツは恐れなど知らない。

 なぜなら最強の精霊におつかいをさせて、自身の身体能力も中々に高いからだ。この中にこの女、メタトロンを止められるヤツは誰一人として居ない。


 それに比べてコイツは運動力は皆無って見た目で悪く言えば、貧弱そうだ。 

「アンタなんだ?」

 俺の視線に気づいてか、少女はこちらに問う。

「無力だ」

 俺は今、ここにおける役割を一言で説明した。

 三上は眼鏡を白く曇らせた。

 光の反射で輝いているのだが、この場合は曇らせたというほうが心理描写じゃ妥当だろう。

「取り敢えず、三日体験入部ってことでどう?」

 メタトロンが提案した。

「まあ、いいけど、

 ちゃんとあたしの命を保証して帰らせてくれるか?」

「いいわよ。いい判断ね。

 帰りたくはなくなるだろうけど」

 誘拐主犯の承認。

 それに応じるかのように、三上の眼鏡は白く輝いた。

 


 


 

 

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幻聴に導かれたら裏世界に入っていたんだが!? 卵割 砂糖 @24god

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