幻聴に導かれたら裏世界に入っていたんだが!?
卵割 砂糖
第1話 暇だから異世界転生することになりました
旅に出よう。
僕はなんだか、それを考えていたら、居ても立っても居られなかった。
自分の中で一番好きなところは、突拍子の無い思いつきから、行動に移すことだからだ。
例えば、どういうことかというと、僕自身を知りたい時に、
僕はツカサという名前だ。などの自己紹介に移ることとかがその分類に入る。
自己紹介。
好きな食べ物は鶏肉のシチュー。もちろんゴロゴロとした野菜は入っていたほうがいい。鶏肉は固め、洋風の商店街で食べたライスにぶっかけるやつは美味しかったなあ。
人間はいつも、自分を探す旅をしている。
ありふれた日常の中でも、常に未知を求めている。そして実力を振るい、自分の存在意義を確信する。
そう僕は信じてる。
心の内に秘めている希望。
それは自分を保つため。
自分という身分証明を持つためには、置き換えの出来ない、かけがえのない記憶だ。
しかし僕にはそれが無かった。欲しい者は全て金で買える力。夢を叶えたいと思える希望。競い合える仲間、全て時間と共に劣化すると思うと大切には出来なかった。
僕は名前以外何も与えられてない。
身分証明の方法は何一つない記憶喪失の旅人だ。
そんな、悪魔の証明染みた証明しか持ってない。
ここまで言って、君達は呆れたと思う。
何が云いたい。って。ため息ついてると思う。
ならば、教えよう。
僕はあてもなく路上を彷徨っている。身分を持たない人間だ。
なんて考えても真夏の暑さは紛れない。
「アナタ、いかにも暇人って顔ね……」
声が聞こえる。女の声だ。
「あなたは一体?」
神待ちの紙メンタルの僕には、どこからか聞こえる幻聴にすら、SOSを求めようとしてた。
「アナタをワタシの世界に連れて行ってあげてもよくってよ。」
「世界なんていいから家ください。
慎ましい小さな家でいいので。
あ、あとですね。
家賃はアナタが払って。アナタは住まなくていいです。小さな家なので。
あとー、毎日お米を食べたいです。もちろん糠を落としてある綺麗な白米を……」
幻聴に僕の夢を希望してみる。
「……いかにも現実的ってカンジね。頼んでることは頭おかしいけど」
「そりゃ、僕はアナタが幻聴だって信じてるからですよ」
その時、ガサガサと聞こえた。紙を漁る音だ。
誰か人が居るかと思ったけど、誰も辺りには居なかった。どうやら幻聴らしい。
「えーっと、有った。有った。
……名前が
自身を旅人と称して現実逃避する穀潰し。好きなことは寝ること。寝る場所は無く。
考えることも好きだが大体、三日で忘れる」
不思議な声は息を飲んだ。それはどことなくリアルで記憶に残る。
「アナタ、ホームレスね!」
「幻聴がよお!説明すんじゃねー!」
「アナタ、ワタシが異世界に保護しなきゃ、死ぬわよ?」
「なぜだ?」体に星のマークがついている一族にでもなった気分だった。
「食料がない。これからゴミ箱に入ってる、食べ残しを食べて、食あたりで死ぬ。
あ、分岐の死亡ルートがもう一つあるわね」
「うっさい!ワイは毒をも吸収して強くなるんじゃい!」
「残念だけど、強くなるころには大人の階段を昇っている頃よ。……天の間違えかしら?
「アンタ、誰だよ?」
「ワタシは神よ」
「そうなんだ」
それで会話は終わった。
なぜかプールに居た。七月の真夏だからだろうか。天井のガラスから太陽の熱気が見える。
僕はプールによくある平な椅子、ラウンジチェアに上半身が裸で寝そべっていた。
「ええー!?」
いや、待て。コイツはプールだ。
それにこれはゴム製のパンツつまり海パンだ。ということは今の俺は犯罪者じゃない。良かった。
「よお、つかさあ!アイスティーしか無かったんけど、いいかな?」
嬉々として喋る女。紙コップを両手に二つづつ持ちながら、歩いて寄ってきた。
女は学校指定の水着にパーカーのようなものを羽織っていた。なんだコイツ。
「アナタ誰ですか?」
貰ったアイスティーを受け取ってストローを吸った。貧困が浮き出ていないか、など少し心配だ。
「よくぞ聞いてくれました。ワタシこそ念願の神の座に座った大逆転の天使。メタトロンよっ!」
その心配はなくなった。おそらく俺と同類だ。
「ってかあ、プールって学生ぶりだよね。
世の中、大変だしねえ」
天使と名乗る女は、空気を読むことなく俺の隣にあるもう一つのラウンドチェアに座る。
「マヂで無理ぃ。。。」
俺はすぐに幻聴の奴が夢にまで侵食してきたと気づいた。
「話だけど、どう?真面目に考えてくれる?
ワタシの世界に住む話だけど」
管理人が居る鯖の民になるとでも思えばいいわ、とメタトロン(笑)は続ける。
「フフ。アナタ、家が欲しいんでしょ?」
「実はワタシの人脈だとランプの精霊の友達がいるのよねー」
「どうしろと?」
「今なら貰える」
「うるせえ。行こう!」
僕は冗談に見えるこの人の絵空事に乗って、異世界に招待されることになった。
短剣を腰に携え、小さなバックには小ぶりの林檎を三つ。他には魔術の書を一冊。
バックには何を入れてもいいけど、要領の悪い僕の容量の悪いバックだから、決まって食料は小ぶりの果物が三つしか入らなかった。
あと後ろから物凄いスピードでついてくるランプ。自動追尾機能がついてる。
「よお、ツカサア!」恰幅の良い漢がランプから出てくる。
このランプにはヤバイやつが憑いてるんだ。
「うわあ、で、出たあ!!」
「出たってなんだよ、もう契約済みだろ?」
書類に飛翔と読める赤い印が添付されてる。間違いなく俺の印鑑だった。
「マカオさん、やめてくださいよ……。
擦ってないんだから……」
「俺、擦られるの嫌いなんだよねえ」
マカオは握り拳を浮かべる。
顔を見る。まるで武人のようだった。
「じゃあ追ってこなくていいですよ」
「いや、仕事って嫌いでもしなきゃ生きていけないやん」
思い詰めたように下に目を伏せる。
なんだコイツ。
「今日の仕事が追いかけることだけですか?」
「そんなことないよ。ふむふむ。
あー今、三時間経ったのかあ。
……あと一時間でタイムカード挿したいから、宜しくねー」
マカオは太い指を三つ見せる。
パートかよ。契約書を怒られない程度にぶんどる。
業務内容 ランプの精霊
一日、三回まで契約者の願い事を叶える。
時給変動あり。
……時給制要らないよなコレ。
「ハロワで暇してたんだ。
精霊以外適正ないし……。
そんな時だったよ。メタトロン、アイツが我にランプと一枚の雇用書を持って現れたのは。
給料もくれるし、我が旧友に感謝しなければな」
「こんな紙切れ一枚で、ランプとくっついた下半身のない巨漢に追われる身にもなってくれ……」
付いてないなあ、化物は憑いてるが。
「俺は追う以外にも色々できるけどな」
「何ができるんですか?」
「家を建てたり、手元にない食べ物を別の次元から拝借したりとかね」
それって働く意味ある?全部自分で使えばいいやん。
「うん。ちょっと待てよ」
ふと、何かに気づいたかのように、マカオは神妙な顔付きになった。
「え?どうしたんすか?」
「その紙、貸して」
危険人物なのでイエスとだけ言って、契約書を渡す。
次にマカオは「あああああああ!」と大地に轟く雷鳴のような声と共に雇用書をひきちぎる。
「え、なんで?」
「俺、働かなくても一人で生きていけるわ。ありがとう!」
「い、いえ、こちらこそ」
「なんか会ったら呼んでね。勝手に電話番号追加しとくから!!!」
こうしてお祓いは完了した。
なんだコイツ。
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