Psychological landscape
目の前の
「これが旅人の石か。実物を見るのは初めてだな」
「知っているのですか」
ツユクサは片方の口の端をつりあげて胸を張る。いま、張るな。おじさん少し焦っているんだぞ。
「うん。みんな消えるときはペンダントを残して逝くからな。中は空っぽだから、初めて石をきちんと見た。どれ、アマクニのはこんなどす黒い石なのか」
「いえ、俺の石は普段は晴天の空のような色をしているのですが。こんな色は初めてです」
「な。イシがないだろ」
石に起きた異変に想いを巡らせると確かに胸の真ん中にぽっかりと穴が空いたような感覚がする。なんだろう。何かを忘れているような気がする。名前、過去、年齢、ミカ、ヤヨのことは頭の中にある。きちんとあるのだが、何かを忘れている。気持ち悪い感覚だ。油に手を突っ込んだような感じの気持ち悪さがある。
ツユクサは意地の悪そうな笑みを浮かべる。その笑みには悪意が感じられない。わざとそういう笑顔を作っている気がした。なんなんだこいつ。きっとレンゴクよりもめんどくさい奴だ。あいつが指を鳴らすと、そこには女の子に袖を引っ張られているミカの姿が
「特等席で一緒に観覧しようじゃないか。コースケが、うしおを、変えられるのか。アマクニが自分のイシを見つけるのとどっちが早いかな」
きっとミカが俺を救いに来たんだ。じゃあ、俺もあいつを導いてやらねばならない。残り少ない奇術用の用紙。何かできることがないか探そうじゃないか。
【No.1224】 石燕 鴎 @sekien_kamome
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