第4話 外は雨

ユイさんは電話に出なかった。


それから数日して俺はまたユイさんに電話をした。その日のうちに2回の電話は緊急性があることを想像させ相手を驚かしてしまう可能性を考慮した。


すると電話に出たが、少し声が違う…恐らく違う人物だ

声の主はユイさんの妹を名乗る人物でこれには俺も驚いた



そしてまた最悪の事を考えてしまった『まさかな…死んだとか言わないでくれよ…』と、するとユイさんは携帯電話を妹さんの部屋に置いたまま行方が分からずという事で


携帯電話はロックをかけられているので操作は出来ず折り返し電話をかける事も不可能で

電話が来たら出れるという状態のようだ。



話を聞いていると恐らく俺と初めて会った日の数日後に姿を消している


ユイさんと俺が初めて会った日くらいにユイさんは自身が住むアパートから妹さんの部屋に数日間転がり込んでいたようで



その後、遺書のようなものも置いて去っていったとのこと俺もその話を聞いて驚いて言葉を失っていた



すると


俺とユイさんはどういった関係性か色々と話を聞かれ全てに答えたところユイさんの交際相手のカズキが死んだ事はユイさんの妹さんは知らなかったらしい



妹さんはその驚きからなのかユイさんの過去の事を細かく話してくれた


ユイさんの父親はユイさんが小学生の頃に病死した。それはまだユイさんの妹さんも小学校に入りたての頃らしく



ユイさんが中学生になり妹さんも小学校高学年の頃に母親が急死したとの事でそれだけでも壮絶だとは感じる


その後は祖父母と共に暮らしていたが


祖母は今で言う認知症のような症状で祖父がノイローゼのような症状を起こしていてその上とても貧しく


妹さん曰く『施設にすら預けてもらえなかった』という状態だったようだ



ユイさんは中学卒業後に働き始めてせめてでもと妹さんの高校生活を支えるために一生懸命に働き貯金などしたりお金を必死で稼いでいた


そのままユイさんは高校に進学せず妹の為に働く事に専念し祖父はずっとそれに反対し続けていたようだ。


なんとか援助でお金は貰えるからユイも高校に行きなさい。と


ただその援助だけでは妹の高校生活が不自由なく思いっきり楽しめる事は出来ないし

との事でとにかくユイさんはめちゃくちゃ働いていたようだ


何度も何度もユイさんと祖父は喧嘩をして


妹さんが高校卒業と共に役目を終えたかのようにユイさんは家を出た


その後、数年経ってもユイさんと妹さんは連絡を取っていたし頻繁に会っていたようだ


妹さんからすれば世界で一番の姉と電話越しでそう言っていた。本当に真似するにも出来ない強く逞しい人だって


そんなユイさんがある日連絡がつかなくなりしかも何日間も連絡がつかなくなり


毎日連絡を取り合っていたので何かあったに違いないと


数日後に妹さんの電話が鳴ったと思えばユイさんからの着信で電話に出ると


千葉県警の人で

ユイさんが覚醒剤所持で逮捕との知らせが入りそれに妹さんは現実を受け入れられず


頭が真っ白になってその辺の記憶はあまりないようだがその辺は祖父が全て対応したようで妹さんはほぼ分からないようだ


覚醒剤所持で刑期が1年と半年くらいが過ぎた頃一人暮らしを始めたばかりの妹さんがユイさんを引き取り一緒に生活を始めたそうだ


妹さんはユイさんに薬に関しては全く問いかけなかったようだが


一緒に暮らしていくうちにユイさんの異常な行動が目立つようになり病院の通院を勧めたところ


薬の後遺症もあると思うがそれが引き起こした可能性もあるが双極性障害と診断が下され

その病気が少しでも良くなるのを祈ってはいたけど


ユイさんは妹さんと住む部屋に度々男を連れ込むようになり

それはちょっとやめてほしいとの事で別々に暮らし始めたそうだ。


お互い別々の暮らしになっても妹さんのユイさんへの感謝と愛は強く仲が悪くなる事は無かったようだ


信頼関係がとても強く毎日連絡の交換をしていたようだ


本当に妹さんはお姉さんであるユイさんの事が大好きで尊敬している様子だ


そしてユイさんはよく携帯電話を置いて家を出てどこかへ行ってしまう癖があるらしく


何日間か連絡とれない…っていうのもよくあるし

携帯電話を無くしたという事もよくあるので


それについては毎回妹さんは心配をしていた。だから今回の行方知らずも別に珍しくないとのことだ


そして気になっていた事について触れた。遺書のようなものを置いていったと妹さんは言っていたので


写真を撮り俺にメールで送ってもらった所


何故だが凄く小さい字で読めない箇所もあったが文字がぎっしり詰まっていて解読できない部分もあったが


簡単にまとめると

職場での楽しかった出来事や歴代の彼氏の話

父母、祖父祖母の話妹さんや友達の話


関わってきた全員への感謝の言葉が綴られていた

カーテンレールを直した俺にも感謝していた


それを見た俺は妹さんに『こう言う事よくするんですか?』と聞くと


この遺書みたいな置き手紙を置いて家は出て行ったのは初めての事だから今回は本当に心配で行方不明の届出をすると話していた



俺はどうしても気になっていた事を聞こうと決めた


ユイさんの薬物に関して『まだやっていると思うかどうか』という事



非常に聞きにくい内容だが妹さんから意見を聞いたところ『薬に関して私は詳しくないけど今もやってるという事実を突きつけられても驚きはしない』との事だった


そして最後に


何かを思い出したかのように



『あ、あと…この人から電話あったら伝えておいてほしいって言われてたんですけど…』


と妹さんに言われ



ユイさんが指名した『この人』とは俺の事だったらしく


どうやら行方が分からなくなる前日に言われた事のようで何にも心の準備も出来てないけど『何でしょうか…』と聞くと


『全部私です。』

と伝えておいてとの事で




俺は全身に鳥肌が立った

驚きのあまりか少し取り乱してしまった


『は?何が?何が全部私です…』なの?

そう聞くと


『それだけ伝言で伝えてって最後に言ってから姿を消したから…私が一番よくわからないんですよ…』


と妹さんは困惑していた


とりあえずユイさんに関して何かわかった事があったら報告してくれるようだ


ユイさんの妹さんは電話越しで自身の携帯電話番号を教えてくれて


俺も一応、電話番号を伝えて交換した後に電話は終わった。


電話が終わってからまたしばらくして俺は頭を抱えてしまった。


意味がわからない…何を考えているんだ…

思考が追いつかなかった




それからしばらく時が過ぎた。


シンジにはユイさんの妹さんと通話した事は特に喋らなかった。


俺ももう疲れてしまったからだ


『全部私です。』これが全ての答えだろうその答えはそれぞれの解釈で異なる回答が出るだろう


どこからどこまでが全部なのか

『全部私がやりました』ではなく


『全部私です』とはどう言う事なのか?まずユイさんとのファーストコンタクトの時


部屋でカーテンレールを直した後の出来事で

サイドテーブルにあったモノを見てから


俺がユイさんに疑いを持ったなんて事は見透かされていたのだろう


ユイさんの『合鍵は渡された事ない』という

発言も事実なのだろう


そうじゃなきゃ『全部私です』という言葉を置いて行方を晦まさないと感じた


何か知られちゃいけない事があるから行方を晦ましたのだろう

薄々だが『気づかれてる…』と察したのだろう


恐らくカズキは本当に自殺ではなかった

俺の予想は事故死で真実はどうかわからないが恐らくこれが正解だろう


衣服と遺体への争った形跡や傷などが無い事から一般的には殺人の疑いは無くなるようだが


覚醒剤の中毒症状にさせて殺害も可能性はあるとも感じたが


ユイさんがカズキを殺害……と考えると

俺はそうは思えなかったもちろん100%殺害の可能性が無いとは言いきれないが



あれから約1年して変わらず俺とシンジはあの葬儀を境に頻繁に会い


ドライブに行ったり居酒屋行ったり服を買いに行ったり釣りに行ったりと



カズキの死を忘れたわけではないが

カズキの死を境にまたこうして友達と再会し

遊んでいるのも



カズキが繋げてくれたものなんだと感じていた。



それに毎日カズキの事を考えているわけじゃない


人が生きる上で仕事をしなければならないし

仕事の事を考えなければいけない


そして生きる為に食べるものにお金を使い

生きる為に必要な水や電気などにお金を使わなければならない。


生きていく為にはお金が必要だからお金を稼ぐ事とお金を使う事という+と−を考えなければいけないし


仕事で団体の中にいればかけ算だって行わなければならない



その人間の才能に自分の持ってる力をかけてどれだけの力が出せるか


よく考えなければならない頭が良い悪いは関係なく皆、一生懸命に考えて生きている


だから人は考える事がたくさんある

それなのに時間はこんなにも忙しなく流れる


いくら迷い苦しみ泣いて悩んで傷つき見えていたものを見失ってしまっても

お腹はすくし眠くなってしまう 


生きているからだ


そんな毎日が難しく感じるし凄まじい早さで時間が流れて疲れるけどそんな中にも愛おしい瞬間はたくさんある


その『生きる』という複雑さの中に幸せが隠れているから

『明日ももう少し頑張って生きてみよう』が毎日積み重なりきっと今がある



だから人生とは何か問われるとそんな複雑な質問は言葉では表せない。




 あれは春だったか夏だったか秋か冬か暑かったか寒かったかも覚えていない


一つ言える事は雨が頻繁に降っていた時期だった。外へ出ると湿度が身体にまとわりつき

水中にいる感覚にも近い少し不快感を得る時期だった事は覚えている


何かの弾みで全て忘れてしまった。


真夜中に一本の電話が鳴った。急に電話がかかってくるのは好きじゃない驚いてしまうからだ。


俺は少し不機嫌になりながらも電話に出た

『遅くにすみません…お久しぶりです

やっと落ち着いたので電話することにしました…』


と、急に話を切り出してきた

ん?誰?と思いスマホの画面を確認すると

ユイさんの妹さんからの電話だった。


その瞬間、話の内容はなんとなく予想は出来てたし驚きもしなかった。


眠ろうとした時に突然、電話が鳴り驚いたせいなのか心臓の鼓動があらかじめ早く打ち込まれていたからだろう


そしてその話の内容は


行方を晦ました後にユイさんは亡くなっていた。という内容だった


妹さんは

『知らせるのが遅くなってすみません』との事だった。


ユイさんの借りてた部屋の不動産との手続きや

カード会社や保険会社など血の繋がった姉の死という事もあり手続きがあまりに多く


葬式などについては親戚や家族数名で終わらせたようだった。


死に悲しんでいる時間すら与えられない状況でそしてようやく落ち着いたようだ。


電話だったけど空気が重過ぎて早く電話を切りたかった。こんな夜遅くに…とすら思ってしまった。薄情なのかもしれない


俺からはもうかけられる言葉が無かった


妹さんの事を考えると胸が苦しく辛かったがもう俺もユイさんの存命には少し諦めも感じていた。


結局は全てが謎のまま



事件、事故、殺人

カズキの死に関するハッキリと答えが分かるとも途中からは思っていなかったので


真実は不透明なまま人は死に

裁かれるはずの人間が裁かれず

裁かれなくていい人間が裁かれる事がある


これは特に珍しい話でもなく特殊な話でもない


電話越しから聞こえてくる泣きながらも声を必死に殺しているせいか外の雨の音がやたらと聞こえてくる泣き叫ぶような悲鳴の雨の音が聞こえた。


 その日はいつもより光が部屋に入ってくる

夜だった。 


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悲鳴の雨 九嶋 @kousei_0224

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