第3話 浮かぶ
電気が走るような感覚だった
『カズキが私に合鍵を渡した事がない』
ユイさんは確かにそう言っていた。
俺は急いで布団から起き上がり驚きのあまり
頭を抱えてしまった。
じゃあ誰が遺体となったカズキがいる部屋の鍵を開けたのか
強烈な疑問に襲われた。辻褄が合わなくなる
ユイさんはカズキと3日間連絡が取れなくなり
心配になりカズキの住むアパートへ行き部屋を開けたらカズキはクローゼットで逆さになって死んでいた。
争った形跡はなく、亡くなったカズキの部屋には鍵はかかっていたという話も聞いている
なのにユイさんは今日『カズキが私に合鍵を渡した事はない』と言っていた。
第一発見者であるのなら鍵を持っていないと部屋の鍵を開けられないので遺体となったカズキを発見する事はまず出来るはずがない
どこかに嘘があるのか…
初めから鍵は空いていたのか?
それとも死亡する直前までユイさんとカズキは接触していたのか?
気づけば俺は最悪な事を考えていた。
ユイさんの部屋のサイドテーブルにあったアルミホイルの巻かれたスプーンと独特に加工されたストローは違法な薬を使用する為の道具だったと想定しよう。
カズキの死亡前にユイさんとカズキは一緒にいた。お互い薬を使用して遊んでいたとして薬の効果が切れてきて外を出て帰れるくらいにまで体が元に戻ってきてユイさんはその場を後にした。そしてその後カズキは覚醒剤による中毒症状が起きて死亡
もしくは
ユイさんの目の前でカズキが薬物中毒のなんらかの症状で死亡しお互い薬を使用しているので通報するにもできなくて死んだカズキを部屋に置き自分一人で部屋を後にした
という最悪の想定を考えてしまった。
が、しかしそういった可能性も出てきた
そして仮に殺人だとしてもカズキの女癖の悪さは友人である俺もよくわかっている
交際相手であるユイさんに何か恨まれるような事をしたと考えてもおかしくはないし
もしかしたら他の女性から殺害された可能性もあるのかもしれない。
しかし殺害の可能性を疑い始めていくと
衣服や遺体に争った形跡が残ると思うしいずれにせよ殺害は無いのだろうと俺は考えた。
なので俺の個人的な考えとしてはカズキが中毒症状を起きてる間に薬物反応が出てしまうのを恐れたユイさんは自分の身を守るべく通報せず部屋を後にしたか
それともユイさんが部屋を後にしてその後にカズキはなんらかの中毒症状で死亡したのか
どちらにしても
『ユイさんは何かを隠しているのではないか?』と感じ始めた。
しかし実際はそんな事はユイさんには聞けるはずはなかった。
何か隠してませんか?なんて恋人を亡くした人に聞けるはずがないが考えるほどカズキの死が不自然な死に見えてきた。
もし疑っている事に気付かれたらユイさんも警戒するかもしくは傷つけてしまうのでどちらにしても良い結果は見えないその辺は慎重にいかないとな…と思った。
その日はなかなか眠れなかった数日してからまたシンジと会う約束があったのでシンジと会った。その日は雨が降っていた。
少し遅れる事待ち合わせの場所にシンジも来た。
いつもの喫茶店だ『遅れてごめんね雨降ってるねー』と、また他愛もない会話をしていたkornの最新曲の話したり俺らの下の代のあの子。あの子AKBのグループらしいよ。とか
そんな話の流れでふとユイさんとの事を俺は全てシンジに説明した。
俺の考えた最悪のシナリオも話したら
『そうは思いたくないけど思い当たる話がある』と前置きをされシンジは喋り始めた。
カズキが薬物を始めたであろう時期と
カズキとユイさんが付き合い始めた時期が
同じ時期だったと話し始めた。
『付き合い始めてからカズキはおかしくなってるよな…』と
しかしその話だけでは無理に繋げているようにも聞こえる
が、しかし
シンジの周りの友人たちの噂でカズキが付き合ってる女がカズキに薬を教えたと言う情報も流れていたようだ。
その付き合ってる女というのが
ユイさんとの事で
俺もその話は100%は信じない。何故なら噂話にしか過ぎないからだ
ただ、火の無い所には煙は立たない。俺もこの目で薬物に使用するであろう道具をユイさんの住む部屋で目にしてしまったので
一つの『疑惑』のまま終わってしまう
平等に公平に見なければならないそれこそ世界中で起きている『冤罪』と同じような事になってしまう。
しかし結果としてはもうカズキの遺体は無いし
今更ユイさんを詳しく捜査してもらうというのも現実味が無かったし
目の前で死にかけている人を助けなかった事に関しては罰は課せられないと昔、聞いた事がある。
曖昧な知識だが不作為にはいくつかのハードルがある。
例えば保護義務は親子で成立する。子が海で溺れているのに親が助けようとしなかった場合は罪になる可能性もあるが
恋人の間ではそれは成立しないので余程のことがない限り罪にはならないはずだ
今更再捜査なんてやっても死んだカズキはもう戻ってこないしプロである警察が出した答えだ素人である一般市民は口出しするべきではないが
せめて真実を見つけさえすれば
カズキは報われるのかも…とか考えてみても
無駄な事でしかないと感じた。失くしたものはもう戻らない
だが俺とシンジの中ではユイさんに何かどこかに嘘があると感じ始めていた
もしかしたら俺はただの好奇心だけで
本当の事を知りたい…ただそれだけで動いていたのかもしれない
しかしその一つの真実に辿り着こうとも
だれもユイさんの周りの人物の事を知らないので情報が得られないユイさんの情報はユイさんからしか引き出せない。
しかも唯一俺だけしかユイさんの電話番号を
知らない。それならば一度ユイさんは置いてせめて何か手がかりがないか俺とシンジとカズキと共通の友人全員と会って話して回ったこの期間が約2ヶ月
もちろんユイさんを疑ってる事は喋らない
そしてユイさんが疑われるような聞き方もしなかった。
ユイさんの事を少しでも知る人がいればその人物から話を聞きたかった。とりあえず話を聞きたいだけだった俺が知っている情報としては
俺とシンジが別れ折り返しユイさんから電話がかかってきてユイさんと居酒屋で話したあの日の初めての会話は
・カズキとは3年の交際
・カズキより3歳年上
・趣味がゲーム
・埼玉生まれ
・妹がいる
のみだった
だから何か新しい情報が欲しかったところでシンジが持ってきた情報があった
『井上が言ってたんだけどさ…』 と話を切り出してきた。
井上とはシンジ、カズキとよく遊んでいた友人だ俺は井上の事は名前しか知らないがその井上が言うには
カズキが浮気してそれが彼女にバレてから彼女にフラれるかもという話があったらしくその時の彼女がユイさんだったとのこと
情報としては薄いが、やはり女癖が悪かったカズキはユイさんを怒らせてしまった事実はあるようだ。
その情報を最後に後は何も情報は得られなかった
結局は噂でしかない
俺が初めてユイさんとコンタクトを取った日しかも部屋に上がり違和感と疑いを持ったあの日から3ヶ月が経とうとしていた。
あれから俺もユイさんとは連絡をとっていない
会ってしまえばこの募ってしまった好奇心からカズキの事を聞いてしまいそうだからだ。
『知りたい』と言う気持ちに囚われていたのかもしれない
一番は一定の距離を保ち、たまに連絡するのが良いと感じた。しかし、ふと嫌な予感がした
『そもそも現在ユイさんは生きているのか?』そんな疑問を持った。
思えばもうあれから日にちも経つしあちら側からは連絡はこない
用事がなければ連絡が来ないのも無理ない
用事はないけど何となく連絡するほどの距離感ではない。
ほとんど無意識の中だった脳が勝手に
しかも突然、体に命令した感覚に陥る
脳が違う脳内でまた数々の映像を俺に炸裂してきた
友人であるカズキと過ごした日々だその時間だ
そうだ…友達が死んだんだ…本当の事を知りたい…もう死んでしまったから誰を責めても何も返ってこないのは分かっている。だけど知りたいんだ。
目の前でカズキは死んだのか
カズキを助けずに逃げたのか
そしてカズキと一緒に薬を使用していたのか。
気づいたら俺はユイさんに電話をかけていた。
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