第2話 疑い
『カズキ…あいつさ…やっぱりやってた?』
恐らくその『やってた?』は薬の事だろう
死亡して少ししてからカズキのご両親から
あの白い粉末は覚醒剤だったと知らされ
『そうでしたか…』と俺はあまり驚かなかった。余計な事も言わなかった。
薄々勘づいていたからだ
何故か俺以外の周りの友人達にも遺体の近くに薬があった話は広まっていた。
俺は勘は鈍いほうだが怪しい点はいくつかあった。
友達として俺は機能していなかったのだろう
注意できなかったからだ。
金を貸して欲しいと何ども言ってきて
何に使ってるんだと聞けば色々あるんだよとか言って誤魔化したり
朝6時ごろ突然電話が鳴ったと思えば
約束もしていないのに『まだ?早く来いよ!』など意味わからない電話がきたり
急に家に来て
なんか言いたい事あるなら言えよ!と押しかけてきたり
ドアをバンバン叩かれ蹴られた事もあった
明らかに様子がおかしいので何かやってるんだろうなという感覚は確かにあったし
他の共通の友人もカズキが薬をやってる事を知ってる奴もいた
中には注意した人間もいたらしく
俺は注意は出来なかったが
『最近変だよ?悪い噂は流れてるよ。』と言う話はしたことがある
『何言ってんだよ人聞き悪いなー』とか少し冗談混じりで笑って話を変えたり誤魔化していた
かと思えば突然凶暴さも無くなり普通の人間に戻ったりもするので
あ、薬は辞めれたのかな?と思って俺も普通に接してしまうけど
今思えば恐らく薬をやったり辞めたりとずっとそれの繰り返しだったのだろう
恐らく定期的にカズキは薬をやっていたのだとは思う
シンジにもその話をするとやはりカズキを知る友人達の間ではカズキの薬物問題についてよく話題になっていたようで
シンジの話を聞いてると
カズキの薬物中毒はほぼ確実だった事に俺は驚いてしまった。
カズキは元々俺の周りの友人達でも一番素行の悪い人間だったが
道に逸れた友達を助けられなかった事にまた苦しくなってしまった
そしてシンジから
『そういえば葬儀の日一際目立って泣いてた子は誰だったの?』という話になった
それはカズキの彼女のユイさんだ
『あぁ…まあカズキの交際相手だよ第一発見者ね…』
『うわぁ…交際相手が…?』
とそのカズキの死の発見時の話をすると
シンジは具合が悪くなってしまいその日は俺とシンジは別れた
それ以降もたまにシンジと会って亡くなったカズキの話はもちろん共通の友人の話や仕事の話をしたりもした
以前よりも会う回数は増えた何より俺がシンジを心配していたからだ
シンジは明らかに体重も落ちて疲れた顔になっていた
シンジと最後に会ってから約1ヶ月後、再び俺とシンジが2人で話していた場所は
千葉県のある喫茶店で近くに銭湯がある
人気の多い場所だ。あれは確か日曜日の事
将来乗りたい車や最近読んでるオススメの本やゲームの話でしばらく盛り上がって話は巡り巡って
カズキの彼女のユイさんの話になった。
そういえば唯一俺だけがユイさんの電話番号を知っていた。
カズキが亡くなって葬儀までの流れの間にユイさんのほうから俺に電話番号を聞いてきたので
俺としても
『この人…1人になっちゃったな…この人の事よくわからないけど一応電話番号を教えてあげておこう』
と、変な気だけは起こさないでほしいと思い
一応交換したのは覚えているが
シンジは『一度そのユイさんにも電話して
元気かどうか確認してあげなよ』と言うものなので『いいや…いいよ』と俺は返した
もちろん生きていようが死んでいようが俺には関係ないわけじゃない子供の頃からの友人の彼女だもし後追いなんてしたら
『死んだカズキも気持ち良くないだろう…』と、思ったし
カズキが亡くなってから約1ヶ月経ち
俺はユイさんにどう話を切り出せばいいのかわからなかったし
思い出させて悲しませる気もしたが、シンジは本当に心配していて
『せめて生きているかだけ確認してあげなよ…』
と言うのでシンジのいる目の前でユイさんに電話をかけた。
するとユイさんは電話には出なかった。
『まあしょうがないか…』と思いその日はユイさんに電話することなく
俺とシンジは 『大丈夫かな…?まさか死んでないよな…』とか心配しながらもその日は解散して喫茶店を出た
シンジと別れ俺は1人家路へと向かってる最中に電話が鳴った
ユイさんだ。
一人になったタイミングで電話は少し抵抗あったが電話をかけた側の立場なので出ることにした。
電話を出ると
『あ、もしもしーこんばんはー電話出れなくてすみません、今仕事終わってー』
と、恐らくだが電話越しでは元気であろうユイさんの声が聞こえた。
俺も『こんばんはこちらこそすみません急に
お久しぶりですねー元気してましか……?』
と、なるべくカズキの名前は出さずに
元気かどうか聞いたら
『いえいえすみませんその節はありがとうございました!カズもあんなたくさんの友達に囲まれて』
というような事をあっちから話してきたので
恐らくカズキが死んで1ヶ月くらいで少しは
精神的なダメージも癒えてきたのかとは思えた。
少しずつ自分のペースで良いと思う急いで立ち直ろうとしなくていいし
急いで恋人の死を乗り越えようとしなくていいと思う時間は待ってくれないのは事実だが
恋人を亡くして早く立ち直ってまでして追いかける価値が時間にはあるのかと考えたら
俺は無いと感じた
恋人の死に寄り添い時間に置いてけぼりにされていようが
一度止まった時間はなかなか動かないという事実を知っておく必要があると感じた。
1人にさせてあげようもうこの人は大丈夫だ…そう思った
『あまり無理しないでくださいね…』と伝えて電話を切ろうとした
すると
『今どちらですか?』と聞いてきた
何故そんな事を聞いてくるのか…と
だがしかし一応、現状を伝えると
『あ、じゃあ今から行きますよその辺!私の家も近いし!』と言われ電話を切られた。
これには俺も焦り急いでシンジに電話をした
『ユイさんから折り返し電話があった今から会う事になったシンジ戻ってこれる?』と
するとその日は
『この後、夜勤あるんだよね…』ということで無理とのこと
亡くなってはいるが一応は友達の元彼女だ。さすがに二人きりで会うのは気持ち的には厳しかった。かなり抵抗がある
そして俺は人見知りなのでせめてシンジさえいてくれれば心は楽だった。
しかし時間は刻一刻と迫ってくる
とりあえず軽く話をして別れるくらいならまあいいだろうと思いとりあえずユイさんを待った。
数分してから
『あーごめんごめん待たせちゃったね!』
そんな事を言いながら俺に近寄ってきた。思ったよりフレンドリーで
葬儀の日から久しぶりに会ってからの
俺がユイさんに対する印象は何となくだけど
この人は人との距離の詰め方が急で
俺のような別に根の明るくない人間としては
困惑するし一緒にいるのもなんとなく疲れちゃうな…というマイナスな印象を感じた。
ユイさんと待ち合わせをしてからは流れはスムーズで近くの居酒屋に入った『古くからの友人かな?』と感じるまでにはそう時間はかからなかった。
気づくと2時間は経っていただろう21時を過ぎていた。ほとんど俺が話を聞くスタイルとなったがどうやらカズキとユイさんは3年付き合っていたらしく
休日はほとんどゲームをしていたようだ。
ユイさんには可愛い妹がいるらしく私が守らないといけないといったような話をしていた。
他にもまだまだ色々な話が聞けたが
死んだカズキが繋げた俺とユイさんが過ごす時間の中に瞬間的に紛れ込む疑問があった
カズキの薬物中毒に関してはユイさんは一切触れなかった
薬物に関しては絶対に何も喋らなかった
不自然なまでに喋らなかった
俺から聞くにしても聞きにくい深刻な話なので
それについては何も聞かなかった
それよりもユイさんが思ったより元気そうで良かった…
と俺は思ったので早々とお開きの流れを作った所ユイさんの様子がおかしかった。かなり酔った様子だった。
これには俺も困ってしまい普通に家まで送らないといけないくらいにまでは酔っていた真っ直ぐ歩行出来ないので車道に出て歩いたら危険だ
俺はユイさんをその場に座らせ少し夜風を浴びせて
俺もその場で一緒に待機していたけど場所が車の走る音がうるさくあまり良くなかったせいか家に帰りたいという話をしていたので
そのまま帰ってもらおうとしたら
『家まで送ってよ!んんーー!!』とゴネはじめたので仕方なしに家まで送ることにした
こういうのは何回かドラマでも見たことがある
家まで送ったら実は彼氏がいて気まずい雰囲気になっちゃうとか
とんでもない趣味があってそれを見て引いちゃうとか
結果的にあまり良くない事が起こりがちだとにかく早く済ませて俺は帰りたかった3分くらい歩くとユイさんの住む家に到着した。
普通に綺麗な築年数もまだ新しく家賃も高そうなアパートだユイさんは酔っ払いながらも
『はぁー!鍵!鍵!』とか叫びながら鍵を何回ドアに刺しても回らず
それが数分続き気づいた事があった
良く見るとこの女…多分違う部屋に入ろうとしている…いやぁ…カズキも大変だっただろうな…この人…酒癖が悪すきる…
そう思い
部屋が違うのではないか?という指摘をユイさんにすると
『いいや、この中にいるやつが違う!』とか
よくわからない事を言い始めて
結局ユイさんの住む部屋の部屋番号聞いたらやっぱり違くて
というか結構違くて
ユイさんは201号室に住んでるのに
205号室の部屋を開けようとしていて
まだ202号室とか一部屋間違えるのならまだ分からなくもないが
隣の隣の隣の隣とそんなに部屋数を飛ばして
間違えるのはさすがに理解できない
なんとかしてユイさんは自分の部屋を見つけ鍵を開け玄関扉を引いた
これで俺も安心して帰ろうとしたら
『あーねぇねぇ!ちょうど良かった!来て!』
とユイさんは俺の手を引っ張り奥の部屋へと誘ってきた
恐らく2LDKくらいだろう一人暮らしにしては少し広めな部屋だ。かなり何もない必要なもののみしか置かないタイプの人なのだろう
整頓されているというよりは不要なものは無いだけの部屋でおしゃれな部屋にしたいというような女性らしさは無かった。
が、しかしだからといってそれがダメというわけでもない
奥の部屋に手を引かれるとシーソーのように傾いたカーテンレールがあった
身長が届かずカーテンレールを付け直す事ができないから直してという事を告げられ
俺はプラスドライバーをユイさんから借りて数分で作業は終わった
振り向くとその数分の間にユイさんは横になって眠っていた
なんか色々忙しい人だな…そう感じた
さっきまで騒いでたのに急に眠って急に起きたらまた急に騒ぐのだろう。
こういう人いるよな自然体っていうか裏表がない人にこういう人が多い
正直で真っ直ぐな性格が故に失礼な人に見える部分もあるだろうけど
おそらく死んだカズキもそういうユイさんの
少女のような無邪気な性格に惹かれたのだろう
なんだかそう考えると少し泣けてきそうになった。
こんなに明るく振る舞っているけど本当はまだ全然辛いだろうに…
無理だけはしないでほしい…そう思い部屋を後にしようとしたらふと目に飛び込んできたものがあった。
リビングのテーブルの上には男性のセンスで選ばれたであろうデザインのキーホルダーが着いた鍵があった
カズキが死んで約1ヶ月が過ぎたカズキの部屋の退去はもう親族が済ませているはずで
そのタイミングでカズキの部屋の鍵は返さなかったのか?
いや…この鍵は新しい彼氏でも出来たのか…いやいや…それは早すぎるか…
そんな小さな疑問を抱きながら
部屋を去ろうとしたら
テーブルの隣にまたさらにサイドテーブルのようなものが目立たない位置にあり
そしてそのサイドテーブルには灰皿とライターとスプーンがあり
スプーンにはアルミホイルが巻かれていた
そして独特な加工が施されたストローもあった
『ん…?なんだこの奇妙なもの…』と思い近づいて見ていた。
すると
ハッと脳が何かを駆け抜けた。それは昔、聞いた事がある話だ。
個体の覚醒剤を炙るのにスプーンの皿の部分にアルミホイルを薄く巻いてライターで炙り摂取する方法があると
スプーンにアルミホイルを巻く事によって熱が薬に伝わりやすいという事だ。
スプーンの上で薬を溶かして液体にして注射器に吸わせて体内に注入する場合もあるようだが
炙りと注射では体への吸収力が全然変わってくるようで
薬から炙りで発生された煙はストローで吸引する場合もあるというのを昔、海外の映画でもそういったシーンを見た事がある。
注射器もそこにあればユイさんの薬物の使用は
ほぼ確実なのだが注射器はそこには無かった。
なので確証はないが俺は完全に疑ってしまった
いやでもまさか…どういう事だ…と俺は気が動転してしまった。
仮に料理でスプーンにアルミホイルを巻く事があるとしても灰皿の近くにこれが置いてあるって何だろう…と
明らかに何かを炙っている気がするたしかにユイさんはタバコは吸っていたけど
ジッポを使っていたよな…
あとタバコを吸う時は恐らくベランダで吸っている
部屋がタバコ臭くないしカーテンレールを直している時にベランダが見えた
そのベランダにはテーブルがありその上に灰皿が置いてあり近くに椅子もあった
灰皿にはタバコの吸い殻が何本か捨ててあった事はこの目で確認していた
なのでユイさんはタバコを吸う際はベランダでタバコを吸っている
そもそも不要なものが一切ない何もない部屋にこのアルミホイルとスプーンのセットたちは恐らくユイさんにとっては必要なものなのだろう
『何にどうやって使ってるんだ…』そう思い何か恐怖を感じ部屋を後にしようとしたら
ユイさんは横たわったまま目を開いて俺のことをジロっと黙って見ていた。
目があった瞬間俺は今まで経験してきたあらゆる恐怖よりもさらに上のまた何か違う領域の恐怖を感じた。
はっ…と息を吸い込んでから息継ぎができないほどにまで一瞬だけど呼吸をするタイミングがズレた
それほどの恐怖は感じた。そしてユイさんは口を開いた
『何してたの?』
そう聞かれて咄嗟に出てきた嘘が鍵を探してたという嘘で
サイドテーブルにある明らかに見てはいけないだろうものを目にしてしまった事については触れなかった。
今から帰ろうとしていて部屋に鍵をかけてから玄関ポストに鍵を入れて部屋側に戻さないと俺が鍵を持たず部屋を後にすれば部屋にユイさんが寝ている状態で玄関の鍵は開けっ放しになるから
セキュリティー的に危険だから鍵を探していた。という話をした
嘘をつく時はどうしても喋りすぎてしまう俺の変な癖は恐らく出てしまった。
するとユイさんは目を見開いたまま黙り込んでしまった。その静寂に耐えきれず俺は
『まあ起きたなら良かったですよ…
カーテンレールはもう直したし帰りますよ。』
と伝え俺は玄関の方面へ歩くとユイさんは立ち上がりゆっくりと俺の後ろを着いてきた
さっきよりは酔いは覚めたのだろうユイさんは真っ直ぐ歩けている。
俺は玄関のドアノブに手をやると
『待って…』とユイさんが止めてきた。
ユイさんが眠る前とは少し様子が違っていた
何か言いたそうな感じと妙な緊張感を感じた
すると
『それ…』
と言って俺の手元を指差した。
ん?と思い自分の手を見ると
俺はどうやらテーブルの上にあった男性のものと思われる鍵を焦って手に持って帰ってしまいそうになっていた。
これには俺も驚いて何故か焦ってしまったのかまた口数が多くなってしまった。
そしてまたいらないことを聞いてしまった
『あーごめんなさい…これカズキの?』
するとユイさんは
『違う…カズキが私に合鍵を渡してくれた事はないよ…』
と返事がきた。
その時のユイさんの表情はなんだか穏やかで寂しそうな目をしていた。それでいて不思議な圧力を感じた。
俺は黙り込んでしまった。するとユイさんは俺が手に持っていた鍵の説明をしてきた
それは昔、職場の人から貰ったキーホルダーでその鍵はユイさんの実家の鍵らしい
だからその鍵ではこの部屋の鍵は閉まらないとの事
まあ何か恐らく変なものを見てしまった罪悪感もあり鍵を下駄箱の上に置いて
『そうだったんですね…ごめんね!お邪魔しましたー!』と、能天気な感じで
何にも気づいていない雰囲気が伝わるように明るく振る舞い家を出た
頭の中はぐるぐると思考が繰り返される
カズキとユイさん二人して薬物の使用をしていたのか…?いやまさか…
俺は早足のまま家に着きなかなか寝付けずにいた。
すると
とんでもない違和感が脳を駆け巡る
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