ウイスキー
手に持った氷入のグラスを傾けるとカラン、一人ぼっちの静かなリビングで寂しげに氷の音が響いた。戯れに何度かグラスを傾けて氷がぶつかる音を聞きながら、中に入った琥珀色の液体を眺めていた。
゛大人になったら一緒に酒を飲もうな゛
昔、父にそう言われたことがある。
私はグラスを揺らすのをやめて、中に入ったウイスキーを体内に流し込む。体の奥の方からボワンと温かくなるのを感じる。
あの時、私はなんと答えただろうか。
゛楽しみだね゛
だったかもしれない。
当時は、本当に父と酒を飲み交わす日が来るのを信じて疑わなかった。大人になって、父と同じ社会人という立場になって色々話してみたかったな。
゛今まで育ててくれてありがとう゛
゛大人ってこんなに大変なんだね゛
゛少しはお父さんの気持ちがわかったよ゛
とか、普通の人なら父親と肩を並べて他愛のない話をするんだろうか。
グラスに半分ほど残っていたウイスキーを飲み干す。頭がぼうっとして思考がまとまらなくなって来た。
もう寝てしまおうかと思い、前を向くといつの間にか目の前に人影のような物が見える。ぼやけて誰だか分からないが、不思議と親しみを感じる。空になったグラスにもう一度ウイスキーを注ぎ、眼の前の影に向かって乾杯の動作をする。
影に向かって一言
゛今まで育ててくれてありがとう゛
今夜は長い夜になりそうだ。
日常のかけら @OPIUM
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