50 高校生スクアッド②

 街を抜けた一行は、高台の一軒家に籠っていた。相変わらず単スナチャレンジが継続中なため、家の2階から敵を一方的に狙っていた。


「そういや、さっきからGeyaniジェヤニ おるよな?」

「そうだな。キルログに名前があった」

「Geyani って Vegaベガ Esports の?」

「せやで。ランクやってるとたまにおるわ」


:世界大会開幕か?

:戦おうぜ


「ミナズキ。Geyani って知ってる?」

「……」


:これは知らんな

:だろうな

:知らなさそう


「韓国のプロゲーマーだよ。去年の世界大会で優勝したチームの若きエースで、royalロイヤル の後継者って言われてる。まだ10代だっけな」

「俺の1個上」

「じゃあうちらの2個上だ」

「なるほど」

「倒して、うちらの名前も覚えてもらわんとな」


 安全地帯が更新される。


「うちら中心やんけ」


 マッチも最終局面だ。次の安全地帯はみんなが籠っている家が半分近くを占めている。

 Geyani 達は南の方で争っている。

 激しい銃声とグレネードの爆発音。

 残り人数8人。


「たぶん4対4だねぇ」

「俺たちが相当有利だな」


 家に籠っているミナズキチームに対して、敵は障害物の少ない平地を徒歩で家まで辿り着かないといけない。

 普通なら負けることのない戦いだ。

 ReAtack が狙撃をする。木の幹に当たった。発砲音から単スナだと理解した敵がひとつ前の木まで走る。


「あぁ……単スナだった。なんでこんな時に」

「当てればええねん!」


 敵はスモークや障害物を使って少しずつ近づいてくる。動きに乱れがない。


「全員プロやな?」


 こういう時、一人で姿をさらしてしまうとフォーカスが集まって倒されてしまう。なので攻撃をばらけさせるために、同時に複数人で移動することが大事になってくる。


「欲張らず、左端から撃っていこう」


 絵麻の声で全員が左の敵を見始める。


 木の陰から敵プレイヤーが走り出てくる。同時に、4発の銃声が重なるように響く。単発のスナイパーライフルは、頭に当たれば1撃だが胴体なら2発当てなければならない。だが連射が効かないので、すぐに隠れられて結局倒せないのだ。

 ということは、全員で一斉に撃てば胴体に2発同時に当てられるわけだ。


PowerGG → Vega_gold


「お、ラッキー」


 最後の一撃は絵麻が持って行った。


Vega_Geyani → PowerGG


「アンラッキー……」


 敵を狙った瞬間、逆に狙われてしまった。頭に2発。さすがの腕前だ。


「気にするな。仇はとってやる」

「いや、起こしてほしいんだけど」

「任せとき。休んでてええんやで」

「いやいや!起こせると思うんですけど⁉」


:草

:放ったらかしで草


「いいとこ持っていきたいからって放置すなぁ!甘えてると負けるぞ!」


 絵麻の抗議は聞こえないフリで流された。

 公式大会なら意地でも起こすところだが、これはあくまで配信上のランクマッチ。安全地帯で有利を引いているのだから、更に人数で囲んで勝つよりも対等に近い状況を楽しみたい。


「あいつら何個スモーク持ってんねん!」

「張り付かれる」


 無数のスモークグレネードに紛れて敵が家に攻め込もうとしている。

 既に最後の安全地帯。残りは家の周囲の僅かなエリアだけだ。


「後ろ付くわ。挟むで」


 FENRiR が窓から飛び降り、ReAtack は階段から1階へ。ミナズキは2階から狙いを定める。この家は一部分が飛び出ている構造になっているため、正面から入ってくる敵を2階から撃つことが出来るのだ。

 うまくハマれば敵を囲い込むことが出来るが、下手をすれば各個撃破されてしまう。そして、こちらは急造チームなのにたいして敵はプロリーグに参加しているフルパーティだ。


 FENRiR が背後から一人を倒すものの、すぐにカバーが入ってやられてしまう。ReAtack は一歩間に合わず、階段を降りきったときには、残り2人の銃口がReAtack を捉えていた。なんとかひとりだけダウンさせたものの、敵のエースGeyani が残っていて倒される。

 不利な状況で先手を取られつつも、常にカバーをし合いながら確実にひとりずつ倒す。世界で活躍するチームの練度である。


 これでGeyani とミナズキが残った状態だ。位置関係は床1枚挟んだ上と下。しかもダウンした敵はともにGeyani のすぐ近く。隙があれば起こされてしまう。

 Geyani は火炎瓶を階段へ投げて道を塞ぐ。これで降りることはできず、起こすチャンスが生まれる。そこへミナズキが火の海を越えてグレネードを投げる。起こしてもらおうと集まってきた敵をまとめて吹き飛ばし、Geyani にもダメージが入る。

 これで有利が生まれた……はずだったが、Geyani は回復の前に追加の火炎瓶を階段へ投げる。延焼時間が延長され、ミナズキが降りられなくなる。窓側は既にダメージエリアで埋まってしまっている。


:うまいな

:頭いい


 そうこうしているうちにダメージエリアが階段を飲み込み、階の移動ができなくなる。

 こうなるとダメージを受けながら効率よく回復アイテムを使っていき、より長く生き延びたほうが勝ちになる。


:回復勝負か?

:くそ安置やんけ


「おい、こういう時の回復の順番わかるか?」


 ダメージを受けながら最大効率で回復するためには、ちゃんとアイテムを使う順番やタイミングを覚えていないといけない。Geyani はプロゲーマーなので、ちゃんと分かっているはずだ。

 一方のミナズキは、確か前に聞いたことがあるような……と思い出そうとしていた。


「降りて戦って!」


 絵麻の声で我に返ったミナズキは迷わず安全地帯から飛び出し、手すりを飛び越えて1階へ向かう。火炎瓶の延焼がちょうど終わったところで、回復しているGeyani の意表を突くことが出来る……はずだった。


「あ……」

「なるほど、考えたな」

「まだ持っとんたんか」


 1階フロアは煙で満たされていた。

 Geyani は万が一のために、回復前にスモークグレネードを投げていた。回復勝負で終わらせると決めた以上、他の選択肢は潰しておくべきなのだ。

 既にライフが3割ほどまで減っていたミナズキは、敵がいそうなところへ適当に乱射してみるが当たることはなかった。


:おしい

:さすが世界王者

:すげえな


 無常にもエリアダメージがミナズキのライフをすべて削りきった。

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Killer Queen~FPSで幼馴染(美少女)を最高に幸せにする方法~ 九道弓 @kudo_q

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