49 高校生スクアッド①
レンガ造りのマンション。その3階の窓から乾いた破裂音がする。
「へいへい!当たってないんちゃう?」
隣から煽るような関西弁が飛んできた。
「ちっ」
「次アタシね〜」
今日はミナズキと
「難しいねこりゃ」
「あんたが言い出したんだろ」
プロチーム
つまり、遊びではあまり当たらないのだ。再び撃ち出した弾は敵の手前十数メートルに落ちる。
「また外しよったな」
:へいへいプロゲーマー
:契約解除か?
:解雇しろ
絵麻以外の3人は配信中である。だからこそReAtack もこのアイデアに乗ったわけだが、今更ながら少し後悔している。
なぜか今日はコメントの当たりが強い。
「遠いな。街中の戦闘が終われば行動範囲も広がるんだけど」
3人は大きな街の南端のマンションに籠もっている。そこから南側の平原にいる敵を撃っているのだが、北側の建物にも敵グループが複数いるらしい。パラパラと銃撃の音が聞こえてくるが、街中は視界が通らないのでそっちの敵は攻撃できない。
「何人か倒れたみたいだけど、まだ膠着状態かな?マップにピンつけた辺りでやり合っているみたいだけど」
絵麻がマップに印をポンポンとつけていく。
「というか、今日はやたら敵が多いな。集まりすぎだろ」
「たぶんスナイプされてるんだよ。ミナズキの配信ではいつもこんなもんだよ?」
「そうなのか?」
「…………スナイプ?」
スナイプとは、視聴者が配信者とタイミングを合わせて同じマッチに入ろうとすることだ。そのまま初期降下を合わせて狙ってくることもあるし、途中で待ち構えていたり交戦中に突っ込んできたりもする。
バッドマナーだし配信を見て有利に戦おうという意味では公平性にも欠けるが、そういう悪質なユーザーは絶えないのだ。
「気づいてへんのか……」
:草
:草
「配信してると、よく敵が集まってくるなって思わない?」
「……そういえば、そうかも」
「配信見てる人が集合してるんだよ」
「へぇ」
:スナイプ、眼中にない
:相手になってないぞ
:うーん。強者の余裕
「スナイプするレベルの奴らやし、ミナズキの相手にはならんへんやろ」
実際の所、ミナズキは「敵が多いとトークしなくていいからラッキー」くらいにしか思っていない。
「あ、敵くるよ」
絵麻の一言で話が中断される。マンションの1階では隣の建物からスモークが伸びてきていた。そのまま建物に侵入してきたようで、下の方からドタドタと足音が聞こえる。こちらの場所は3階であると割れているため、すぐに2階まで上がってきた。
「さて、どう仕掛けて来ますかな?」
この建物には階段が一つしかない。そこから昇ってくるしかないのだが、当然こちらは待ち構えているわけで、無策に突っ込んでくるわけがない。スモークや閃光弾で視界を防ぎつつダメージ覚悟で仕掛けてくるのが定石ではある。
「……」
「……」
:来ませんねぇ
:しーん……
「いや来ーへんのかい!」
大阪人のFENRiR が思わずツッコミを入れてしまったが、全員考えていることは同じだった。来ないんなら何故同じ建物まで来たんだ。
「……足止め?」
「あ、そうかも」
このまま膠着状態が続いて安全地帯から外れると、ミナズキたちの方が降りていかなければいけなくなる。そうなると不利なのはこちら側だ。
ここが2階なら窓から飛び降りるという手もあるが、3階から降りるわけにもいかない。
「じゃ、こっちから行きますか!」
「わかった」
「作戦名!強行突破!」
:作戦?
:ただの突撃で草
絵麻がグレネードで敵を下がらせ、立て続けに投げたスタングレネードで敵の視線を動かせる。
敵が視線を階段へ戻したとき、既に3人のプレイヤーが姿を見せていた。
敵の行動はバラバラだった。2人は撃ち合いを始め、2人は後ろの部屋へ隠れた。撃ち合った2人は2対3で数的不利を背負ってそのまま倒され、下がった2人も別の部屋に別れてしまったため孤立してしまった。
「左は抑えておくから右を潰してきて」
「あいよ!」
絵麻は左の部屋へグレネードを投げ、扉を閉める。扉の向こうで爆発音がしているとき、後ろで複数の銃声が響く。
「ダウン」
「おっしゃー!次ぃ!」
相手がプロチームなら話は別だが、敵が統率を失った場合は立て直される前に勢いで押し切ってしまったほうが楽だ。
「じゃあ扉開けます。はいどうぞ」
既に勝敗は決まっている。
ひとりで部屋に隠れているところを3人に囲まれてはひっくり返す手はない。残った一人も蜂の巣となり、こちらの圧勝で戦いは終わった。
さっそくとばあkりに4人分の物資を奪って懐が潤う。
「大漁大漁♪」
「安置変わるよー。外れた、西だ」
のんびりとしている時間はない。今から敵中を移動しなければならないのだ。
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