君が落とした恋を拾いに

舞空薺雫

第1話ㅤㅤ余命宣告

今思えばあの日に見た夢が始まりだった。


野々瀬琴美。16歳という若さにして余命宣告を受けた。昔から大きな病気なんで患ったことがなく、とても元気で負けず嫌いで素直だった。

「余命半年でも私死なないから!絶対治すから!」

この言葉が琴美の口癖だった。

半年の宣告を受けた時は俺も琴美も声が出ずひたすら泣いた。俺がこうして彼女の横で笑顔を見せられるのは琴美が笑顔で居てくれるから。

「こーた!ねぇアイス食べたい!」

こーたとは俺及川洸太のこと。学校が終わるといつも琴美の病室へ行きこうしてベットに固定されてしまっている琴美の為に世話をする。

俺は財布を握りしめ病室を出て院内のコンビニへと歩く。そして琴美が好きな蜜柑のアイスを2つ手に取り会計を済まし病室へ戻る。

「ほら琴美、蜜柑のアイス買ってきた。」

琴美の笑顔が見たくて俺はこうして今日も彼女に会いにゆく。偶に切ない顔をする時もあるがこうして明るく接するのが彼女なりの精一杯なのだろう。誰が見ても無理をしているようにしか見えない時もあるが、こうして俺の隣でアイスを食べる時は純粋に笑っているように見えて愛おしい。あと、どれだけこの幸せそうな琴美の笑顔を見れるだろうか。あとどれだけ琴美の声を聞けるだろうか。医師の言う余命半年はとうに過ぎており、目に見えるように彼女の身体は日々衰弱してゆく。病気が琴美の身体を飲み込んでゆく。もう手の施しようが無い位まで琴美の身体が弱ってると思うと泣きたくなるが琴美の前では泣けない。涙をぐっと堪える。

「琴美、いつも有難う。大好きだよ。」

伝えられることは伝えられるうちに俺はいつも気持ちを伝える。すると琴美は頬を少し紅色に染めながら、

「洸太、いつも有難う。私も大好き。」

こう答える。この幸せな時間がずっと続きますように。どんなにそう願っても神様は残酷なのだ。


─1週間─

俺は琴美の両親から連絡を受けすぐに琴美のいる病院に飛んで行った。琴美がいる階に着くと嫌な音が響く。その音は琴美の病室から響いていた。廊下には琴美の父親と泣きながら震えている母親が立っていた。

琴美の父親に会釈をし、必死に琴美を見守る。琴美は沢山の医師や看護師に囲まれている。医療に無知に等しい俺でも今琴美は生と死の境目に居るということが分かるくらいだった。自然と目には涙が溜まりやがて大きな粒が零れ落ちた。俺は必死に祈った。


──神様。琴美はまだ生きれるよな?こんなに頑張ってるんだぞ?ここで命を落とす程残酷なことは無いんだ!お願いだから琴美を連れて行かないで──


俺が病院に着いてからなん時間が経っただろうか。琴美は緊急手術を行っていた。俺は琴美の両親に連れられ待合室で座っていた。琴美の父親は覚悟を決めたようにずっと琴美のいる病室をじっと見つめている。母親は涙が枯れそうなくらいに大粒の涙を流し続けながらずっと何かを祈っている。俺はと言うと、ほぼ覚えてないや。多分放心状態のまま琴美のいる病室を見つめてたのだと思う。途中看護師が気にかけてくれることもあったか。記憶があまり無い。ただ必死に琴美ともう一度話したいと願うばかりであった。

それから何時間が経っただろうか。俺は琴美の両親に仮眠を勧められたがあまりにも眠れるような状況で無かった。俺が病院に着いて37時間。琴美は死亡が確認された。俺は絶望感に侵された。いつかこの日が来るとは分かっていたがショックが大きすぎた。

看護師に連れられて琴美が居る場所に案内された。俺はふらつきながら琴美の両親と共に移動した。点滴や色々な機材が外され眠る様にベットに寝ている琴美が居る。まるで眠っているかのようにとても綺麗だった。だが身体に触れると冷たくて。人間の温もりがなくて。機材が全て外れた琴美はいつも通りの琴美に戻り、少しやつれては居るが俺の知っている琴美だったがそこで俺は改めて琴美がこの世から居なくなったことを確認し、今まで堪えていた涙が全て溢れ出た。声を押し殺して大粒の涙を流した。同時に神様を恨んだ。運命とは残酷なものだ。神は残酷で冷酷で、改めて琴美の存在の有り難さを痛感した。

俺は1ヶ月たっても2ヶ月たっても心に穴が空いたままだった。琴美の両親から許しを貰い、毎日琴美の家にお邪魔し、線香を立てた。事実を受け入れることが出来ず心ここに在らずという状態だった。琴美にもっと会っておけば良かった。琴美ともっと話しておけば良かった。琴美の存在がクラスで1人の俺には支えになってたというのもあり、琴美に会いたくて自殺を考える日もあった。その度に琴美が夢に出てくるのだ。今までの楽しかった思い出が蘇りその度に俺はもう少しだけ生きようと思えた。段々と、琴美が生きられなかった分俺が生きよう、という思考に変わっていったが、依然として心にぽっかりと穴が空いた状態なのは変わらなかった。琴美の両親には新しい恋を見つけられるといいね、と言われるが到底そんな気にはなれずに、とうとう琴美が消えてから6年の月日がたった。


次回予告

 ̄ ̄ ̄ ̄

当時16歳だった洸太は7年の年月が流れ23歳になり新社会人として社会に出ていた。果たして別の女性と新しい恋が出来ているのだろうか?それともまだ未練があり心に穴が空いている状態のままなのだろうか。

2話では

"7年の月日でも昨日のように感じる"

で、投稿致します。

もしよろしければ次回もよろしくお願いします。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ─舞空薺雫─

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