第30話 最終話

ーーー1年後。



「ねぇ?幸司さん…。会社に行かなきゃ」


「行くよ〜。でも、|貴之(たかゆき)をもう少し眺めてからな〜」


にまにましながら我が子の頬を突く幸司さんの姿に、私は大きなため息を吐いた。




あれから結婚式に新居の完成に移動…と慌ただしい中、めでたく付き合う事となった愛子と誠一郎、2人揃って挨拶に来たり、妊娠発覚で慌ただしい日々を過ごす事となった。

新婚旅行でハネムーンベイビーを授かっていたのだが、1日でも早く子どもが欲しいとベッドに縫いつけられ、観光一つさせて貰えなかったのだ。

何処にも観光に行かずにヤりまくれば出来るわ!とあの時の事を思い出すと、怒りが込み上げてくる。

まあ、それでも出て来た五体満足な我が子を見れば、そんな事もどうでもよくなってしまうが。

しかし、鮎川君の処と同級生、というのにちょっと笑えてくる。


鮎川パパはお爺ちゃんで、幸司さんはお父さん、という処に。



我が子にメロメロで有り難い事なのだが、病室が会社の通りを挟んで前の為、仕事を持ち込んでする始末に、看護師さんも唖然とするしかない。


「幸司さん。明日は私も貴之も家に帰るんだから、会社行こうよ…」


「嬉子〜、ヤキモチ妬いてるのか〜?」


『…莫迦だ、この人…』


貴之におっぱいをあげる為、幸司さんを押し退け抱き上げる。

ベッドに座り服をたくし上げ、貴之の口におっぱいを含ませた。


「5年もしたら一端に生意気な口を利いて、10年したら1人部屋が欲しい、とか言い出すんだろうな」


必死に乳首に舌を絡めて鼻で荒く息をしながら飲んでいる息子を見ながら、幸司さんは笑う。


「でもな、貴之。お母さんはお父さんのモノだからなー。おっぱいも貸してやってんだからなー」


と。

もう可笑しくて私は声を出して笑えば、おっぱいを飲みながらタイミング良く貴之も笑った。


思わず2人で見つめ合って、貴之に微笑みながら視線を落とす。


何気無い日常が輝いて見えて。


そんな些細な事が幸せに感じる。


あぁ、こうやって家族って出来て行くんだな、と神様の贈り物に私は心から感謝した。



            【終】




※感情を持って笑うようになるのはもっと先になりますが、タイミング良く笑ったのは「ひきつれ」によるものです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

好きになったらダメなのですか? 仙堂 りえい @ahosenta

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ