第82話 推測

「襲撃情報は嘘だったのか?」と、小林が吐き捨てるように言うと、

「嘘ではない。実際に襲撃は行われている」

「ならばなんでデータがないんだよ。お前、ちゃんと調べたのだろうな?」と、小林は計器前の男に詰め寄った。

「小林、待て。心当たりがある」と僕が静かに言うと、全員の目が僕に注がれた。みんなの顔を見回してから、僕は言葉を発した。

「はっきりと断言はできないが、一番真実に近そうな話をしよう」と。


第一に、今まで手中に収めた施設は、全てスタインの指揮下にあったこと。当然、富士も例外ではない。

第二に、今回の首都攻撃は、中国軍部の一部による暴走だったこと。

第三に、来襲の形跡が無いにも関わらず、敵が現れた事。それが首都攻撃とのタイミングが良かったこと。それらを伝えて出した答えが、

「全てスタインの独断行動だ」

「いくら何でもそれは……」と王女は言ったが、あくまでも同胞意識だけによるもので、自分の発言自体には自信の欠片も無いように見えた。


「最初に言っておくが……」そう言って僕は王女の目を見て言葉を続けた。

「私に王子の記憶があることはみんなも知っていることだと思う。その記憶からも、スタインの独断であると思われます。王子はスタインに言われるがままを信じていたようだ」王子にとってスタインは育ての親であり、学問などの師でもある。疑うことはなかったと言っても当たり前かもしれない。

「ええ。それは理解しています。スタインには尊敬と信頼を寄せていたのは、私でも知っていました」と王女もその意見には納得しているようだ。

「それを踏まえてお聞き願いたい」そう言ってから僕は小林を見た。


「UFOを信じるか?」

「まぁ、今となっては信じるしかないだろうな」と片目を瞑った。

「だよな。じゃあ、宇宙人たちの秘密基地は?」

「え?南極大陸だとかチベットの山奥だとか、陰謀論みたいに騒がれてた代物だろ?」と、小林が笑った。

「でも、宇宙人は現にこうして存在してるじゃない?」と、康子がにやりと笑いながら言い返した。

「そ、それはそうだけど……」実際に地下の基地を見たのだから、否定はできない。小林もそれは嫌と言うほど理解はしていた。


「現に、我々と地球人と我らを食う宇宙人は存在している。ほかに居たっておかしくはないだろ?」と僕は詰め寄った。

「ま、まぁな」

「で、我らを美味そうに食う奴らも、地球上のどこかに巣食っていると考えれば、辻褄は合うよな」

「ま、まさか!……」これには康子も声をあげた。

「それをスタインが知っていて、しかも、襲撃を唆していたと考える」

「それは飛躍し過ぎではないか?」と、九条も拒否反応をみせた。

「いや、今回の攻撃と襲撃のタイミングから見て、僕はありだと思っている」

「それじゃあ、中国にもスタインの仲間がいると言うのか?」と九条。

「僕はそう考えている」


「攻撃させるなんて、自分たちにも被害が出るじゃないか」と、小林は言った。

「地上ならば被害は出るだろう。地上ならばね」と僕は笑った。

「確かにそうかもしれんが、でも人間には多大な被害が出るじゃないか。肉体の確保のためにも人類は必要不可欠だろ?」小林の考え方は人間、いや、平和ボケした日本人そのものに思えた。僕だって何も知らない時には、同じように考えたかもしれない。けれども今は王子の記憶があり、異星人の存在を知り、考え方に大きな変化が起きたことは事実だ。


「ああ。でも僕が見た限り、確保された肉体の数は膨大だ。それに地球上すべての人類と考えれば、六十億もの人間が存在する。国の一つや二つ消し去っても、なんの問題もないだろう」

「ちょ、ちょっと晴夫!なんて酷いことを」と、康子は怒りを露わにした。

「康子、今は人間として話しているわけではない。スタインの考え方として話している。そこは理解してくれ」そう言うと、康子は下唇を噛みしめ黙り込んだ。康子も平和な人で生きた記憶しかないのだ。致し方ないだろう。


「でも、軍部の暴走だって釈明してたじゃないか」小林は尚も食い下がった。中国の覇権主義は、日本の中でもずっと問題視はされてきた。スタインの干渉がなくとも、中国の軍部が暴走することもあり得る話ではある。

「スタインの仲間が中国政府の中枢に入り込んでいたとしても、一部だけと言うことだろう。中国としても何らかの説明をしなければ。流石に世界から孤立するしかないからな」

「たとえそうだとしても、自分を食らおうとする奴らと、スタインが手を組むかしら?下手をすれば自分も食われるのよ?」康子は疑問を呟いた。

「スタインは前線に出ないからな」と、僕は笑った。


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