第81話 消えた数値

「おかしいのですが……」と、代表者だけが集まった場でコントロール機器に向かっていた男が小さな声をだした。今後の行動について話し合う場の空気を壊したくなかったのだろう。

「どうした?」その声に気が付いた小林が訊ねた。

「実は、今までの敵の行動パターンを調べていたのですが、妙なんです」

「敵とは、王子たちか?」

「いいえ、我らを食う虫獣たちです」

「ん?奴らか?」

「はい」と男は答えると、いくつかの機器を動かし始めた。

「これをご覧ください」との言葉に僕をはじめとし、その場の全員が大きなスクリーンに目をやった。すると、数々の数値や記号などが画面上を流れた。


「これは?」と僕が訊ねると、

「富士の施設を手中に収めたことにより、奴らの襲撃データも手に入れました。

しかし、おかしいのです」

「どこがおかしいのかはっきりと示してくれ」流れる数値に見当もつかず、僕は急かすように言った。その語気が強かったのか、男は身をこわばらせた。

「こ、これは、奴らが襲ってきたときのデータです。そしてこれが……」と言うと口を閉ざした。

「ん?どういうことだ?」映し出された画面には、一切の数値も記号もなかった。


「は、はい。襲撃時に奴らは飛来していないのです」

「どういうことですか?」さすがの王女も面食いらったかのように問質した。

「富士の観測所で襲撃を確認していたのではないのか?」と、僕も驚きの声をあげてしまった。観測所で動きを察知し、こちらも対処に動いていると思っていたからだ。それは王子の記憶の中でも同じだ。

「しかし、彼らが察知された形跡が残されていないのです」

「ちょっと待ってくれ。それじゃ、奴らは何処から来るんだ?」と、小林は頭を掻きむしりながら呟いた。奴らは太陽系を動きまわりながら、地球への襲撃、我々の捕獲を目的に来襲するとされていた。ところが、その形跡がないというのだ。それこそ、小林の言うようにどこから来るのかが、問題になってくる。

「しかし、来襲の報を受けて我々は迎え撃っていたのではないか?」と、小暮も呟いた。

「その命は何処から発せられる」

「……はっ……」

「そうだ。スタインだ」と、僕が言った。と言うよりは王子の記憶の中にあった。『動きを察知しました。行動に移ります』と、スタインから何度も聞かされたことがあったからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る